kiji

2015.10.8 果物の歌
 10月5日付「時の風物詩」で取り上げた項目の中に高村光太郎の「智恵子抄」の「レモン哀歌」で
「そんなにもあなたはレモンを待っていた・・・私の手からとつた一つのレモンをあなたのきれいな歯ががりりと噛んだ」という詩である。
 このように果物を題材にした詩が他にもないか探してみた。いくつも見つかった。果物ごとにいくつか上げてみる(敬称略)。
『りんごへの固執』谷川俊太郎
「紅いということはできない、色ではなくりんごなのだ。丸いということはできない、形ではなくりんごなのだ。酸っぱいということはできない、味ではなくりんごなのだ。高いということはできない、値段ではないりんごなのだ。きれいということはできない、美ではないりんごだ。分類することはできない、植物ではなく、りんごなのだから」
『ぶどう』与田準一
「ぶどうのように ひとつひとつが まるく。
ぶどうのように みんなが ひとつのふさになって。ぶどうのように ゆったりと においも あまく。ぶどうのように よろこびをひとから ひとへ」
『栗』金子みすゞ
「栗、栗、いつ落ちる。ひとつほしいが、もぎたいが、落ちないうちにもがれたら、栗の親木は怒るだろ。栗、栗、落ちとくれ。おとなしいよ、待ってるよ」
『黄色いサクランボ』星野哲郎
「若い娘は(ウフン) お色気ありそで(ウフン)なさそで(ウフン) ありそで(ウフン)
 ほらほら 黄色いさくらんぼ つまんでごらんよ ワン しゃぶってごらんよ ツー 甘くてしぶいよ スリー
 ワン ツー スリー ウーン 黄色いさくらんぼ」
といった具合にたった一つの題材で詩人は空想を膨らませ、人の心と結び付けてしまう。まるで言葉の錬金術師のように。
 短い言葉の中に情感を込めるというのは、とても難しい業だ。 俳句は巧拙が見分けにくいから簡単に詠うことができるが、詩はそうはいかない。
 詩を書くという時がくるのか、そうなればうれしいのだが。






 
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