日常細事


kiji

2016.8.30 よくもきた
 突如「ギャー」という凄まじい悲鳴。「何事か!」とパンツ一丁で風呂場から飛び出し、「どうした」と言うと「アッツ、ウッツ、カカッ、ク・・蜘蛛ッ」と硬直した姿勢で「出たっ」と答える。家にはカミさんの嫌いな小動物が時々姿を見せる。尋常ではないので、指差す方を見たが姿は既に消えていた。特大の蜘蛛(クモ)だという。普段からゴキブリやヤモリが出てきても騒ぐ。目敏くて直ぐに嫌いな生物を感知してしまう能力を備えており、余談だが探しものの名人だ。
 駆除は私の仕事だ。家事協力はその程度くらいしか無い。それにしても今回の騒ぎ方は常ならぬ様子だったので、この辺がカミさんのアキレス腱のようだ。
 この夜はクモは再び姿を現すことはなかった。次の夜。再び「ギャーッ」という悲鳴。あのクモがカミさんが普段寝ている和室の壁にへばりついているという。
 早速駆けつけ警護に出向くと、なるほどデカイ手の平ほどもある足長のアメグモが飴色の姿を見せている。カミさんは「殺せ」と命ずる。私が『クモはゴキブリやダニの幼虫を食べてくれる益虫だから殺すのはよくない。昔から「よくもきた」といって、これを殺すか、逃がすか二説あるが、逃がすことにしよう」と説得した。たまたまこの時期義母(ハハ)が亡くなり、葬儀を控えている時だったので「おばーちゃんは霊力の強い人だったから、これも何かの知らせだろう。無碍な扱いはしないで放してやろう。これからは静かに驚こう」と言うことで落着した(PC版「しるす」のコラムでその「ババ様」の話題を掲載中)。
 それでも怖いものは怖いらしく、その晩は明け方まで眠れなかったと、翌朝こぼしていた。実は私としては、あの悲鳴がご近所に聞こえて私がDV夫だと誤解されるのを畏れた。
 三日目の夜またまた「キャッ」という押し殺した声。見に行くとベランダ近くの引き戸の側に件(くだん)のクモの長い足がのぞいている。素早いので捕まえることはできないので、一計を案じ、べランダの引き戸を少し開けて逃げ道を作り、蚊が入るので、蚊取り線香を戸の下に置き、一晩様子を見ることにした。その後クモは姿を見せていない。
 これが騒動の顛末である。
 私しはゴキブリ、クモより女房が怖い。


 
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