私の戦後70年 少年期3
少年期３(中学時代)
昭和２６年３月に中学に入った。学校は家の近くの丘の上にあり、畑を整地して廃材で応急的に建てたもので、見るからに見すぼらしい２階建ての、戦前の兵舎のような造りだった。整地されていない校庭はいつも土煙で茶色い空気で覆われていた。高台にあったため、強風に晒されながら立ち続ける朝礼は辛かった。体育館などというものが建ったのは、ずっと後の話だ。校舎内の床はザラザラの古材に重油を塗ったもので、いつも嫌な臭がしていた。放課後重油を塗るのは生徒の当番であった。同様に学校内部も荒んでおり、不良が徒党を組み一般の生徒を脅しまくっていた。悪評高き中学校であったことは確かだ。更に輪をかけるように悪い制度があり、ホームルームというのが、１年から３年まで始業時と終業時事に一つの部屋に集まるという制度であった。何を考えて始めたのかしれないが、こんな反抗期にある生徒が集まり、なおかつ体格差が大きい年頃だから、上級生は容赦なく下級生をいじめた。先生も戦争帰りだったりして、暴力は当たり前の暴力教室を地で行っていたのが、当時の中学校の実態だった。金持ちは私学に子弟を入れることで、こうした脅威から子どもを守っていたのかもしれない。なぜかこの時一緒に過ごした同級生が還暦を迎えてクラス会を持ち、それが今も続いているのは不思議な事である。苦楽をともにしたという気持ちが強いのだろう。それでも集まったのは全体の５分の一程度の人数で、それも１５年も経つと少しづつ欠けてきている。
ここで少し当時の世相を見ることにしよう。
この時期は戦後復興が初期段階にあり、生活物資は慢性的に不足していた。さすがに買い出しに農家を回るというほどではなくなったが、その代わりの役割を果たす「闇市」が隆盛期を迎えていた。
今の人にはどんな市か分からないと思うが、簡単に言うと不法な売店のことである。人は生きるためには手段を選ばないのは、いつの時代でも同じである。頑なに法を守り餓死した学者がいて話題になる時代だった。闇市で売られる商品は、米軍から流れ出た横流し物資で、今のアメ横のような狭い店が軒を連ね異様な活況を呈していた。
筍(たけのこ)生活と言って、古着や骨董品など家にある財産を少しづつ切り売りして、金に変え(質屋が流行っていた)それで食いつないだ訳である。
こうした不法が蔓延(はびこ)るということは、悪の温床になりヤクザがはびこり、縄張り争いで流血沙汰は日常化していた。丁度その頃朝鮮戦争が勃発した。これは日本に特需という日本の産業に活気をもたらすことになった。特に神奈川県は米軍のベースが多く存在し、駐留軍と名を変えていたが、帰休するアメリカ兵が多く見られ、米軍人・軍属が多く住み、PXという軍専用の大型スーパーがある本牧や当時横浜一の繁華街伊勢佐木町界隈は活況を呈していた。
この頃から日本の景気は右肩上がりで成長していくようになる。丁度今の中国が右肩上がりで経済成長しているように。この当時の目立った記事(昭和26年当時)を紹介する。
・第一回 NHK紅白歌合戦放送
・力道山デビュー
・日米安全保障条約
・度量衡法が廃止され、メートル・キログラム(尺・寸・匁・貫などから)を採用
・ラジオ東京(現TBS)開局
・日本航空設立
・赤痢大流行(死者1,4000人)
・朝鮮戦争(1950.5-1953.7)米兵にGIカット大流行
・三原山大爆発
・プロ野球初のオールスターゲーム
など日本が大きく変わる兆候が顕著に見られる。
この記事の内容を詳しく見ると、 力道山の勇姿に国民が日本の復活を見るのは、テレビが街頭で見られるようになる昭和29年になってからである。
このように激変の時代が私の中学時代に当たる。学校を卒業するもので高校に進学するものは3〜4割で、工業や商業系の高校が多く、まだ普通高校への進学は少なかった。大学まで進む者は全体の2割ぐらいであったろう。
大半は就職するわけであるが、家業を継ぐ者は別として、産業分野に向かうものが多かった。大手企業の養成工として入り、長い訓練期間を経て職人の世界へと進んだのである。こうした若者が後の日本を背負っていくことになる。私は家に近いという理由で近くの普通高校へと進学した。将来への希望とか何になりたいなどという、先のことは全く見えない時代であり、次の青年期まで私自身は精神の拠りどころが見つからず彷徨の時代へと入っていくことになる。
昭和29年という年は大きく世の中が動き新しい時代を迎えた感を強じるのを歴史が物語っている。次に代表的な出来事を示しておく。
02/19 シャープ兄弟と力道山・木村のタッグマッチ初挙行、プロレス人気高まる。02/22 テレビ受信契約1万台突破。
03/01 ビキニでの米水爆実験で「第五福竜丸」被爆。16日乗組員全員原爆症と確認。
04/20 第1回全日本自動車ショー開催（64年に東京モーターショーと改称）。
06/09 防衛庁設置法・自衛隊法公布。
11/03 東宝の特撮映画「ゴジラ」が封切。
12/07 吉田内閣総辞職。