2017.8.22 職人業(技)の時代(1)
幼いころ我が家の改修工事を、朝から夕方まで飽きずに眺めていたことを思い出す。親父の仕事が最盛期の時のことで、相当な金を注ぎ込んだ工事だった。
家には多くの職人さんが入り、それぞれの仕事を手際よくこなしていた。この工事をひっくるめて大工仕事と呼ぶことにして話を進める。
大工には棟梁と呼ばれる親方がおり、その人の指示で仕事は進められる。その姿と仕事ぶりは、今手元にある江戸職人図聚(中公文庫)にある職人の姿と二重写しになる。
棟梁の姿は今でも覚えている。頭が完全に禿げ上がり見事な輝きを放っていた。家に来て庭先での最初の仕事は、鉋(かんな)を研ぐことであった。鉋の刃には三種類あるようで、荒鉋、中鉋、上鉋といって、図聚によれば「荒鉋は粗削り用、中鉋はその上をならすように平らに削る。上鉋は仕上用で、鉋屑が透けて見えるように仕上げる」
材木は削り台を設(しつら)えて作業する。三角定規の角が90度の方の形をしていて、その勾配が粗削りから仕上げになるほど緩くなっていき、仕上げの段階ではほとんど水平になっている。鉋を引く度にカールした薄紙のような鉋屑が出てくるのを、手品のような技のような思いで眺めていたものだ。
鉋のほかに墨壺と差金は大工必携の道具らしく、いつも側に置いてあった。差金(指金)というのはWikipediaによれば「 ステンレスや鋼、真鍮などの金属製で目盛りがついており、材木などの長さや直角を測ったり、勾配を出したりするのに使われる。L字型をしており、両方の辺(長手と短手(妻手))に目盛りがある。また、内側にも目盛りがある」とあり、万能物差しといったところか。墨壺は「 木でできており、壺の部分には墨を含んだ綿が入っている。糸車に巻き取られている糸をぴんと張り、糸の先についたピン(カルコ)を材木に刺す。この状態から糸をはじくと、材木上に直線を引くことができる」とあり、 木材を加工するために、印(線)をつけていく事を墨付けというそうだ。ここでは差金と墨壺はセットで仕事を果たす役割を担っている。
棟梁は仕上がった柱を手際よく計測し、墨で印をつける。そこに鑿(のみ)が登場し、切込みを入れていく。この切込みは他の木材と組み合わせるためのもので、見事にかみ合って骨組みができていく。釘など一切使わない匠の技がそこにある。ひと仕事終わると棟梁は煙管を出し、刻み煙草を詰め、火をつけるとすっと吸い込み、ふっと細い煙の筋を吐き出す。びしっと決まった一瞬だ。
次回につづく。
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