kiji

2013.10.17野分(のわけ、のわき)
 秋に強く吹く風を「野分」という。16日には台風26号が日本を直撃、この10年で最大の台風と言われ、多くの被害をもたらした。中でも、大島は死者行方不明者49名に達する大災害となった。1時間100ミリを超える雨が3時間以上も続き、24時間で800ミリという記録的大雨をもたらし、土石流が発生し、大きな災害を引き起こした。
 横浜も16日の夜は一晩中ビュービューと時にはゴーと地鳴りのような音を伴って吹き荒れた。路肩に置かれていた自転車は軒並みドミノ倒しとなり、その強さを物語っていた。今回の台風は、早くから警戒警報が出て、その強さは予想は付いていた。
 昔の人は台風を前以て観測することができなかったから、秋の突風と感じ「のわけ、のわき」と呼んでいたそうだ。長年天声人語を執筆した荒垣秀雄氏は野分について「立秋は八月初旬の暑い盛りだが、九月の声を聴くとすぐ二百十日、二百二十日と厄日が続く。今は台風と言うが、昔は文学的表現で野分といった。秋草の野を吹き分ける野分は荒々しい破壊的なものだが、なぜか昔から日本人は、この大風を恐れながらも好んで俳句の題材とし、台風一過の自然の暴威にそこはかとなき詩情を感じた」と記述している。
 孫請けの感の強い文面となったが、流石にエッセイの達人の自然に対する観察は細かく適確だ。
 今もニュースは大島の災害復旧活動に全力を尽くす地元消防団員、東京都消防局のレスキュー隊員そして自衛隊員の活動を多くの時間を割いて伝えている。行方不明者が一人でも多く救助されることを祈るばかりだ。ここ横浜では、台風一過の秋晴れとはならなかったが、僅かの間大きな虹を見て少し救われた気がした。

   野分去り雲の合間に虹暖簾(のれん)  風楽