このシリーズは富嶽三十六景と富嶽百景を10枚づつスライドで紹介するもので、今回はその5弾目の10作品(No.41~50)。解説は浮世絵のアダチ版画オンラインストアなどを参照させていただいた。後半の5枚は富嶽百景から選んだ作品で、解説は文献および私見を交えて表示した。
41相州七里浜
夏の相模湾、現在の鎌倉稲村ヶ崎から見た富士です。藍色の濃淡だけで描かれた藍摺(あいずり)の作品です。色鮮やかな藍色は、当時ヨーロッパから輸入され、江戸の人々に大人気となったプルシアンブルーが基調となっています。人物も描かれておらず、北斎にしては珍しい純風景画と言えます。藍一色で絵にしてしまう北斎の上手さに魅せられます。
42信州諏訪湖
諏訪湖畔には、上諏訪・下諏訪その他の町が古くから発達していました。遠景に見える城は高島城です。諏訪湖越しに見る富士が藍の濃淡だけでつくられた藍摺(あいずり)によって美しく表現されています。諏訪湖にたった一艘だけ船が浮かんでいるのも、北斎の心憎い演出と言えます。遠近法を巧みに用いた構図も北斎独特のものです。
43江都駿河町三井見世略図
軒先にかかる看板には、「現金掛け値なし」と有り、当時呉服業界では珍しかった現金支払いで、良質な商品を必要な分だけ販売していた三井越後屋を描いたもの。みなさんご存知、現在の日本橋三越です。通りをはさんで建つ越後屋の店舗、その間から見える富士、屋根の上の瓦職人。全てが絶妙なバランスを保っています。北斎の筆使いが冴えわたった1品
44東海道吉田
吉田城の城下町でにぎわった東海道吉田は、現在の愛知県豊橋市にあります。室内を通して見える富士を描く、という珍しい試みがなされた作品です。富士が良く見える茶店で、ひと休みする道中姿の男女、わらじを直す人足、中央に茶店の女中など様々な人の様子が生き生きと描かれています。北斎の人物描写の上手さが見られます。
45諸人登山
この図は、皆さんにお馴染みの富士山が見えません。画面には、山登りをしている人々が描かれていますが、彼らが登っている山こそが富士そのものなのです。富士をただ単に姿の美しい山とみるだけでなく、気高い聖地"霊峰富士"として描いているのです。まさに、冨嶽三十六景が出版されたきっかけともなった富士講ブームをこの図にみることができるわけです。
これ以降は富嶽百景の塗り絵に入るが、原画はスケッチであるので、無色彩である。従って富嶽三十六景を参考に色付けを考えなければならない。どこにでも先駆者はいるもので、ネット上では彩色画が見つかることがある。そうしたものをも参照して仕上げたものである。解説は私的観察にもとづいて記載した。
46快晴の不二(富嶽100景)
北斎は天候・時刻・季節によってさまざまに姿を変える富士を鋭くとらえ、表現している。
そのことを一番よく表しているのがこの絵で、これは有名な、「富嶽三十六景」の「凱風快晴」に匹敵する作品。
47夕立の不二(富嶽100景)
動的な風景を見事に絵にしたのがこの作品。稲妻や雨嵐の激しさ、倒れんばかりの樹木、そして逃げ惑う人々の姿がリアルに描かれている。
48海上の不二(富嶽100景)
富嶽百景は3巻からなる絵本で、初編天保5年(1834年)刊行、二編は天保6年(1835年)、三編は刊行年不明(かなり遅れたらしい)。75歳のときが初版(北斎改為一筆)。富士山を画題に102図を描いたスケッチ集であるが、この作品は二編9丁目の作。砕け散る波頭は千鳥の群れと一体となり、遠方の富士の峰へと降りかかかる。北斎独特の構図。
49不二出現(富嶽100景)
眼前に迫る富士。武士も町人も揃って、その光景に釘付けとなっている。写生している町人の姿も見える。富士は武士町人の隔てなく、その荘厳な姿で包み込んでいるような光景である。
50七夕の不二(富嶽100景)
夏の風物詩七夕は、庶民にとっては大切な年中行事で、現代より大掛かりな飾り付けをした大きな竹の葉に願いごとを書いた短冊が鈴なりで、富士を背景に強い風になびいている様をダイナミックな筆致で描き切っている。(2017.8.11)