改訂版日常細事の 「身近な習わし」でも紹介したが、実際に正月に行われる神社・寺院の行事日程が、どのような内容なのかを紹介する。
正月の神事としては、筒粥神事や歩射(びしゃ)などの年占いや予祝類が多い。
筒粥というのは、炊いた粥を用いて作物の豊凶を占い農耕への指針を示す行事 (27本の葭の筒に、お粥がどの位入るかによってその年の吉凶を占う古神事。神事が終わると、直会として大釜で炊き上がったお粥が振る舞わる)で、横浜市港北区の師岡熊野神社(1月14日)、伊勢原市の大山阿夫利神社(1月7日)、中郡二宮町の川匂(かわわ)神社(1月15日)などで行われるのが有名。
歩射は弓により豊凶を占うもので、 川崎市中原区丸子山王日枝神社では毎年1月7日、当番町会から選ばれた男の子と父親、ペア2組が張烏帽子に白丁(はくてい)、梨 子打烏帽子に直垂(したたれ)姿で神前儀式のあと、境内で的に矢を射る。さらに天にむかって 矢を放つ。この古式ゆかしい神事は五穀豊穣を祈願するとともに、その年の豊凶と作物の奥手か生か、または葉物か根菜かの作付けを占う。相模原市田名八幡宮の的祭(まとまち)も弓を射る行事で、 毎年1月6日に行われ、豊凶を占う伝統行事。起源は古く「鎮守祭礼人数帳」では源頼朝の頃からとされ、また「八幡宮縁起」では元禄時代からとも伝えられている。射手は満3歳から5歳の男児が選ばれ、当日は神官がくじ引きで順番を決めて弓矢を授け、参拝後に的場にて計12回に射た弓矢の結果で、一年の豊凶を占う。「市指定無形民俗文化財」に指定されている。
三浦郡葉山町の御霊(ごりょう)神社では1月7日に御歩射神事( その年小学校へ入学する児童を集め勧学と成長を祈請し、忌的に忌矢を射る神事)が行われる。同様に小田原市の白鬚神社では1月7日奉射祭が行われる。
漁師の年始めの祭りとして鎌倉市材木座海岸にある五所神社では、1月11日に豊漁航海安全を祈願して潮神楽が奉納される。これは漁師の船正月の湯立神楽(釜で湯を煮えたぎらせ、その湯を用いて神事を執り行い、無病息災や五穀豊穣などを願ったり、その年の吉兆を占う神事の総称である。別名を「湯神楽(ゆかぐら)」とも言う)である。
なお、芸能による予祝としての田遊びの類は近年になり再興された神事で、寒川神社の田打舞神事(たうちまいしんじ)は「としごいのまつり」とも云われ、年のはじめに当たり五穀豊穣を祈る重要な祭典で2月17日に行われる。
神仏習合時代の名残のあるものに、修正会(しゅしょうえ:この法会は、前年を反省して悪を正し、新年の国家安泰、五穀豊穣などを祈願するものである。期間は基本的に7日間)を伝承する鶴岡八幡宮の御判行事が元日から7日まで舞殿で執り行われる。毎年受験生の祈願で賑わう。
横浜市泉区の御霊神社の太刀祓(たちはらい)神事が1月1日に行われる。この神事は 太刀の刃で寄り来る不吉を切り捨て、天地を祓い国土を清め、今年一年の人々の無病息災、家内安全を祈り願い舞う。
宮中の行事に破魔矢の授与や豆撒きという民俗的要素が加わった神事が、寒川神社の追儺(ついな)祭で境内すべての灯火を消した暗闇の中、年頭(1月2日 )にあたりすべての邪気災厄を祓い除く寒川神社の特殊神事・追儺神事が、古式に則り齊行される。
小正月の14,15日を中心に行われる火祭行事として有名なのが、大磯町の左義長(さぎちょう)でセエノカミサン(道祖神)の火祭りで、祭り当日、町内各所のおんべ竹やお仮屋などを片付け、集められたお飾りや縁起物を浜辺に運んで9つの大きな円錐型のサイトが作られ、日が暮れると9つのサイトに火が入れられ、この火で団子を焼いて食べると風邪をひかない、燃やした書き初めが高く舞い上がると腕が上がる、松の燃えさしを持ち帰って屋根に載せておくと火災除けのまじないになるという伝承がある。平成9年には、国の重要無形民俗文化財に指定された。