第五文節の解説に入る。今回も初めに原文とその英文訳を示し、語句の注解を付した後に現代文訳に移ることにする。訳文には参照した文献の著者名を記すことにする。
原文「人のさとりをうる、水に月のやどるがごとし。月ぬれず、水やぶれず。ひろくおほきなるひかりにてあれど、尺寸の水にやどり、全月も弥天(みてん)も、くさの露にもやどり、一滴(いつてい)の水にもやどる。さとりの人をやぶらざる事、月の水をうがたざるがごとし。人のさとりを罣礙(けいげ)せざること、滴露(てきろ)の天月を罣礙せざるがごとし。ふかきことはたかき分量なるべし。時節の長短は、大水小水(だいすいせうすい)を撿点し、天月の広狭(くわうけふ)を辦取(はんしゆ)すべし」
英文訳(ネルケ無方)「Wnen you awaken, it is like the moon reflected in water. The moon does not get wet, and the water is not deformed.
That light shines wide and clear, and still it finds space in an inch of water. The whole moon and the whole sky abide in a single dewdrop on a blade of grass.
Just as awakening does not deform you,the moon creates nohole in the water. You cannot obstruct awakening, just as a dewdrop cannot obstruct the sky and the moon.
It is just as do as it high.Considering the length or shortness of time, you should explore how vast or smal the water and how wide or narrow sky and the moon are.
注解(増谷)「ここで、道元は、人が悟りを得るという、そのことはいかにしてなるかを語ろうとする。先に不生・不滅といった。それもそのことに他ならないが、ここでは、それを(水にやどる月のごとし」と説くのである。
弥天:弥はあまねし。全天というほどの意。
罣礙:罣はひっかかる。礙はさまたげる。障碍をなすという意。
時節の長短は・・辦取 すべし(水野):時間の長短は、これを、水の大小とはなんのことか、露に宿る天の月は広いのか狭いのかを点検・弁別会得することによて確かめよ。長短不可弁の意を寓している。前の「深きことは云々」も高低と深浅との別に固執することをしりぞける言葉。