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 第十話 山父のさとり


 
  昔あるところに一人の桶屋が住んでいました。雪の降った朝、外に出て仕事をしていると、山の方から一つ目一本足の、恐ろしい怪物がやってきて、働いている桶屋の前に来て立ちました。
 桶屋はそれを見て震えながら、これが昔から話に聞いている山父(やまちち)というものだなと思いました。そうするとその怪物は「おい桶屋、おまえはこれが山父だというものだなと思っているな」と言いました。「これは大変だ、こっちの思っていることを、直ぐにああして言い当てる」と思いますと「おい桶屋、おまえは今思っていることをすぐに覚(さとる)から大変だと思ったな」と又言いました。それから後も、なんでもかでも思うとじきに覚られるので、桶屋は困ってしまいました。
 そうして仕方なしにぶるぶる震えながら仕事をしていますと、思わず知らずかじかんだ手が滑って、箍(たが)の竹の端が前に走り、山父の顔をパチンと打ちました。山父はこれにはびっくり仰天して「人間というやつは時々思っていないことをするからこわい。ここにいるとどんな目に逢うか知れない」といってどんどん又山の方へ、逃げて行ってしまったそうです。(阿波)


 



 


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