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 第十一話 天道さん金ん綱

 
 昔々ある村に、母と三人の子とが住んでいました。母が三人の子に留守番をさせて寺参りに出かけた後で、山姥(やまんば)が母に化けて帰ってきました。山姥の手はさわって見ると直ぐにわかるのですが、子どもをだますつもりで芋がら(ヤツガシラの皮を剥いて乾燥させたもの)を巻いてきたので、子どもは母の手だと思って戸を開けて中へ入れました。
 山姥は三人の子の一番小さいのを抱いて、奥の間に入って寝ました。そうしてがりがりとその子を食べてしまいました。次の間に寝ていた二人の子はその音を聴いて「何を食べているのか」と山姥の母に尋ねますと、小さな一本の指を奥の間から投げてよこしました。
 それを見ると直ぐに山姥だということがわかって、二人の大きな子は逃げて出る相談をしました。最初に二番目の子が「便所に行く」と言いますと、山姥が兄の方に「戸を開けてやれ」と言いました。それで二人は家の外に出て、井戸端の桃の木に鉈で切り目をつけて、それを伝って木の上に登りました。
 山姥は後を追っかけて方々探しているうちに、井戸を覗いて見たので、桃の木の上にいる子が見つかりました。「どうしてその木に登ったか」と山姥が尋ねます。「鬢(びん)つけ油を塗って登った」と頭の児がうそをつきました。
 山姥は鬢つけを持って来て桃の木に塗りますと、つろつると滑ってどうしても登ることができません。二番目の子がそれを見て笑って「鬢つけ油を付けて登れるものか、鉈で切り目を付けて登るのだ」と言いました。
 山姥はそれを聴いて、鉈で切り目をつけて登ってきます。二人の子は困ってしまって、空を見上げて「天道さん金ん綱」と大きな声で呼びますと、がらがらと音がして天から鉄の鎖が下ってきました。それにつかまって子どもたちは天に登りました。
 山姥もその後から、同じようにどなりましたが、今度は天から腐れ縄が下がってきて、それをつかまえて登ろうとした山姥は、高い所から落ちてきて蕎麦畑(そばばたけ)の中で、石に頭を打ち割って死んでしまいました。
 蕎麦の茎はその山姥の血に染まって、その時からあのように真赤になったのだそうです。(肥後天草郡)


 



 


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