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 第十五話 夢を買うた三祢の大尽



 むかし日向の国の三祢という大金持ちが、まだ貧乏な旅商人だったとき、夏の日に仲間の者と二人連れで、ある山路を越えて寂しい高千穂の村へ入っていきました。「あんまり暑いから少し休もう」と言って、道の横手の木の蔭に横になりました。仲間は直ぐに眠ってしまいました。その姿を三祢がまだ起きてみていますと、一匹の蜂が寝ている男の鼻の穴から飛び出して、どこか遠くの山の方へ飛んでいきました。「妙なことがあるものだ」と思うと、やや暫くしてその蜂は帰ってきて、再びその男の顔のまわりへきて、いなくなってしまいました。やがて目を覚ました仲間がいうには「今うち(私)は実に珍しい夢を見た。なんだかこの近くの山でもあるらしかったが、歩いてみると一つの谷が、金で一杯になっている所があった」と語りました。「それはまことによい夢だ。その夢をうちに売ってくれんかのう」と言いますと、「夢なんか何になるものか、バカなこと言うでない 」と言いましたが、お酒を振舞って、とうとう夢を買い取ることができました。
 それから幾日かの後に三祢はまた一人でこの土地へ戻ってきて、毎日々々一生懸命になって、山という山、谷という谷を探し回りました。そして遂に見つけ出したのが、外録という金山であったということです。それが三祢の一代の間、夢で見た通りに莫大な金を産出して、またたくうちに九州一の大尽になりました。
 不思議なことに三祢が死んでしまうと、直ぐに大地震が起きて山が崩れ、今ではその跡が一つの沼になっているということです。(日向西臼杵郡)


 



 


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