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 第十六話 炭焼小五郎


 昔々、豊後の国の有名な真野の長者は、元は炭焼小五郎という貧しい、よく働く青年でした。三重の内山という所に小屋を建てて、一人で炭を焼いて暮らしていました。この小五郎の小さな寂しい炭焼き小屋へ、都から美しいお姫様が、尋ねて下って来られました。「私は京の清水(きよみず)の観音様のお告げを受けて、あなたの家へお嫁に来た者です。今日からこの小屋に置いて下さい」と言いました。「折角遠い都からはるばると嫁に来て下さったのは嬉しいけれども、この小屋には今晩二人で食べるだけの、お米さえありません」と言いますと、お姫様は錦の袋の中から、二枚の小判を出して炭焼小五郎に渡しました。小五郎はその黄金を手に持って、山を降りて町へ食べ物を求めに行きました。内山の麓には谷川が流れています。その岸には川楊(やなぎ)の林が茂って、その陰が静かな淵になっていました。林の中の道を小五郎が通っていますと、二羽のおし鳥がその淵の上に遊んでおりました。小五郎はそれを見かけて立ち止まって、手に持つ二つの小判を礫(つぶて)にして、その鳥を打ちました。よく狙って打ったのですが、おし鳥は飛んで逃げ、小判は水の底に二つとも沈んでしまいました。それで仕方がないので又山の小屋に戻って来ました。「今途中で水鳥を見つけたから、捕ってきて上げようと思ったのに、当たらなかった」と申しました。
 花嫁はそれを聞いてびっくりしました。「あれは大切なこの世の宝で小判というものです。あれだけあれば沢山の氷や魚鳥を買えるのに、惜しいことをなされました」と言いました。そうすると炭焼小五郎も始めて知って、大変驚きました。「あの石がそんなに貴いこの世の宝だとは少しも知らなかった。それならばこの小屋の後ろの山に、幾らでもあの色をした小石が転がっている」と言って、早速二人で松明をつけて見に行きますと、果たして小五郎の話した通り、一谷の小石はことごとく純金でした。それを拾ってきて小屋の中に運び入れますと、たちまち炭焼小屋が一杯になったので、その残りは小屋の外に積み上げて置きました。町や里の人たちはその事を聞いて、我も我もと色々の物を売りに来ました。そうして黄金を分けてもらうために、皆が小五郎夫婦のために働いてくれました。そこで三重の内山には大きな屋敷を開き、又観音の御堂を建てて信心しました。奥州のだんぶり長者と同じように、玉のような、きれいな姫が生まれて、後に都に上がって御妃になり、家はますます栄えました。元が炭焼きであったから、それで炭焼長者と人がいいました。(豊後国深田)


 



 


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