昔々ある村に、とても心の優しい爺と婆とが住んでいました。爺は毎日編笠をこしらえて、町へ出て売って暮しを立てておりました。明日は正月という日にも笠を売りに出ましたが、暮の市だから笠などは少しも売れません。しかたがないので笠を背負って戻ってくると、ひどい吹雪の中で野中の地蔵様が、濡れて寒そうに立っておられます。「これはお気の毒だ」と思って、六つある笠を六つの石地蔵様に着せて上げました。そうして家へ戻って婆にその話をして何もする事がないから、そのまま寝てしまいました。そうすると年越しの夜の明け方に、遠くの方から櫓を曳く音がして、歌の声が聞えてきました。
六台の地蔵さ
笠取ってかぶせた
爺あ家はどこだ
婆あ家はどこだ
こういって櫓を曳く声が、段々と近くなってくるので、起き出して、「ここだここだ」というと、戸の口へどっさりと、宝物の袋を投げ込んで置いて、六人の地蔵様が帰って行く後影が見えたそうであります。
(2017.8.29)