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日本昔話(第二十五話) 蜥蜴(とかげ)の目貫(めぬき)


 昔ある一人のすぐれた彫り物師が、まだ駆け出しで世の中にはその名も知られていない頃の話だそうです。
 ある日庭に下りて一匹の蜥蜴が、石の間に遊んでいるのを見つけました。その蜥蜴の形が如何にも美しいので、いつまでもじっと見ているうちに、ふとこれを彫刻してして見ようという気になって、その形を写し取って、ほどなく一つの銀の目貫(飾り金物として柄の目立つ部分にすえられる)を作り上げました。
 我ながら好く出来たと思って、それを道具屋に持って行きますと、直ぐに買い取ってくれたばかりでなく、後からまた一つまた一つと、次々に注文がありました。いずれも上出来と褒められて、それが評判となって幾つこしらえても売れぬということはなく、次第に収入も多くなって豊かな暮らしが出来るようになりました。
 ただ奇妙なことには、この目貫を作り出すようになってから、いつ庭先へ出て見ても、夏でも冬でも石の間から、必ず同じ蜥蜴が出ていて、目の前で遊んでいるのだそうです。始めのうちは別に何とも思いませんでしたが、段々にそれが気になって、なんだか気味の悪いようにも感じられてきました。それも他人の目には少しも見えず、ただ自分だけに見えるので、いよいよ我慢が出来なくなって、ある時思い切って小石を打ち付けてその蜥蜴を殺してしまいました。
 そうしたところが、その時から評判の細工が急に下手になって、たまたま作っても誰も買おうという人はがなく、蜥蜴の目貫の注文はさっぱり途絶えてしまって、いつの間にかまた元の通りの、貧乏な彫刻士になってしまったそうであります。





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