homewatchimagepaintpre2017

 
日本昔話(第二十六話) 拾い過ぎ



 これは江戸の昔話です。昔青山に門奈助左衛門という金持ちの武士がおりまして、その家来にとても正直な何某(なにがし)という男がいました。
 暮の二十八日に主人のお使いで、浅草の蔵宿に行って五十両の金子を受け取り、それを大切に財布に入れて首にかけ、今の青山の電車通りの、玉竜寺の前まで戻って来ましたところが、路が悪いので転びました。急いで屋敷に帰って汚れた手を洗おうと思って、部屋の鴨居にその財布を引っ掛けて置きながら、すっかり忘れてしまって手を洗って主人の前に出ました。
 さて返事の口上を述べようとすると財布がない。あわてて物も言わずに飛び出して、急いで玉竜寺の門前まで行って見ますと、幸いにまだ人が通らなかったと見えて、小判が散らばって方々に光って落ちています。それを拾い集めて数えてみたら、三十八両までありました。十二両も不足したのは困ったことだが、兎に角申しわけをして後はなんとかしようと思って、家に帰って見ると鴨居の折れ釘に、ちゃんと自分の財布は引っ掛かっていました。
 それでは此方(こちら)は拾い物であったと気が付いて諸方へ知らせて待っていましたが、いつまでも落とし主が出て来ませんので、偶然にそれは自分のものになり、これを元手にして段々に立身したのは、全く常から正直の報いであったろうということでありました。
 最初に寺の前で倒れたのも、多分急いでその小判にすべって転んだものらしいという話でありました。





Copyright 2013 Papa's Pocket All Right Reserved.