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 暦と日本人の生活(4)


 暦注の主役となった六曜についてその由来を探ると、六曜は迷信の最たるものではあるが、現在普及している七曜に対抗するなかで、暦のお日柄(暦注)を決めるうえで忘れられない存在である。ところがその起源は実のところよく分かっていないことが多い。最も有力な説は、一か月を指の数である五つに分解して六日づつの小単位を作り、その一回り六日のそれぞれに付けた名称であったのではと考えられている。
 もともとは現在の七曜と同じように、単に日にちを区別するための記号であったのが、やがて吉凶を示すように神格化されていったものと思われている。これは、中国漢の時代に六行説といって、すべての事象を六つに分類して考える思想が流行したが、その流れを汲むものであろう。
 この中国式六曜は、日本へは14世紀頃鎌倉時代末期から室町時代にかけて渡来し、それが貞享(じょうきょう)年間(1684~88)頃から、日本式の日の占いへと変化を見せ始め、名称・順序・解釈も日本独自のものへと進展していった。名称が確定したのは享和から文化(19世紀初頭)とそれほど遠い昔ではない。その200年間の変遷の中で変わらないのは大安と赤口だけで、これは当初からの取り決めだったそうである。もっとも寛政・享和年間には大安が泰安と呼ばれた時期がある。仏滅を物滅と表記されるのを今でも見るが、これは幕末の時の名称で空亡・虚亡という中国流の古い意味に近いといわれる。
 六曜の順番は変わらないが、月は旧暦で行われるので、月の第一日目(朔日)は次のように定められていた。正月・七月は先勝(せんがち)、二月・八月は友引(ともびき)、三月・九月は先負(せんまけ)、四月・十月は仏滅(ぶつめつ)、五月・十一月は大安(たいあん)、六月・十二月は赤口(しゃっこう)として、これを月の晦日まで続けて打ち切り、翌月の一日は前記の順番とするルールである。現在のカレンダーに当てはめるとこの順番は全く当てはまらない。今年の6月1日は大安になっている。旧暦では赤口のはずであるから。何が何だか分からないという現象が起きてしまう。
 迷信といわれても、新暦に切り替わる前の人たちにとってその日の吉凶が直ぐわかる六曜は便利だったのかもしれない。
 六曜の吉凶はどのようなものかというと、
「先勝」先んずればすなわち勝つの意。どの暦の解説にも「急ぐことよし、訴訟事よし」と説明されている。また、午前中は吉で午後悪しともなっている。
「友引」凶事に友を引く、凶禍が友に及ぶの意。「勝負無き日と知るべし」とある。ところがそれが古くから伝わる陰陽道で「友引日」というのがあり、ある日にある方向にことを行うと凶禍が友に及ぶとされた。特にその方向に向かっての葬儀は忌まれたところから六曜と混同されて、どの暦の解説も「この日に葬式を出すことは厳に慎むべし」としている。また、朝晩は吉、正午だけ凶ともなっている。
「先負」先勝の逆で、先んずればすなわち負けるの意。どの暦にも「万事に平静であることが良し」とある。したがって、勝負事や急用事はなるべく避け、控え目にして相手の仕掛けてくるのを待つのが良いとされる。朝晩は凶、昼過ぎから日暮れまでは吉となる。
「仏滅」仏も滅亡するような最悪の日の意。もともと空亡・虚亡をすべて意訳して物滅となり、転じて仏滅となった。したがって、お釈迦様の命日とは全く関係ない。この日は六曜の中での大凶で、祝事・法事などすべてにうまくいかない大悪日である。現実には仏滅に葬式を出しても一向に気にしない人が多い。考えとして仏滅だから、仏様に関係がありそうなので、葬式を出しても構わないとなったとも考えられる。また、この日は移転・開店も忌み禁じられている。
「大安」大いに安しの意。大安吉日とも称される。万事に用いて吉、成功せざることなき日、婚礼に特によいと解説されている。大変めでたい日で現在では結婚式の日ということになった。
「赤口」陰陽道でいう凶日のひとつ。下手にいじると神様のたたりでもあると考えたのか、この日は、午の刻だけが吉で、朝夕は凶とされ、特に祝い事には大凶とされる。赤から連想される火の用心、大工・板前など刃物を持つ人たちの要注意日とされた。
 ちなみに七曜という暦もある。これは日(太陽)・月、および木星・火星・ 土星・金星・水星の5惑星の毎日の宿度(二十八宿の基準となる距星から赤道に沿って測った経度)を書き記した暦本。一般には余り使われない朝廷用の暦で、平安時代のはじめに空海が持ち帰ったものを、朝廷で毎年編纂される具注暦に付記されたのが起源という。現在ではこの七曜名を使って暦の一週間とする基礎と位置付けられている。次回は陰陽五行思想と十干十二支のなりたちについて解説することとしたい。(参考文献:現代こよみ読み解き事典)


 


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