旧暦を語る上で陰陽五行思想と十干十二支との関連は明確にすることが必要である。
今回はまず陰陽五行思想とはどのようなものか見ることにする。
中国が発祥の陰陽五行という思想は森羅万象を陰と陽、そして木、火、土、金、水の五気に分類し、その陰陽五気の結合、盛衰によってあらゆる現象を判断し、かつ未来まで予測しようというものだ。それによるとこの五気の並べ方によって仲の良いもの(相性<そうしょう>)と仲の悪いもの(相剋<そうこく>)になると説明されている。木→火→土→金→水→木は、次のような相関関係があるとされる。木が燃えて火を生じ、火は灰となって土を生じ、土の中から金属を生じ、金属には水滴がついて水を生じ、水によって木が生きるという相性があり、一方これに反し木→土→水→火→金→木と並べると、木は土に喰い込み土は堤防となって水流をせき止め、水は火を消し、火は金属を溶かし、金属は斧となって木を切り倒すので、相剋の関係にあるという、まるで風が吹けば桶屋が儲かるという論法である。
陰陽五行の根本にある思想は太陽の動きに連動している。太陽から地球に到達する光と熱の量は1年を単位として増減する。そこに四季が生じる。この春・夏・秋・冬という四季節は私たちの生活に大きな影響を与えている。この自然の法則は今の世でも変わらない。陰陽五行思想はこの四季の変化を説明するものである。
陰陽五行説は地球の生い立ちを次のように説明する「この世のはじめ宇宙は未だ混沌たる状態であったが、やがてその混沌の中から軽く澄んで暖かい気、すなわち『陽の気』がまず上昇して『天』となった。それと同時に、重く濁って寒い気、すなわち『陰の気』が下降して『地』になったという」地球創造から始まる。そして五行説へとつながっていく「この陰陽は一年を周期として代わる代わる消長盛衰する。その消長する間に、木火土金水(もっかどごんすい)という五つの活力のある物質を生じる。この五行も陰陽と同様に一年を周期として代わる代わる消長盛衰し、そのため一年の間に春夏秋冬の四季節(四時)の別が生じる」という。
季節の消長盛衰と五行の関係を具体的に示したのが次の相関関係である。
「春→木の芽が出る(木)、夏→烈火のごとく暑い(火)、秋→金属のように冷え冷えする(金)、冬→氷や雪に閉ざされる(水)。このようにして陰陽は一年を周期として、互いに逆方向に消長する」
このように循環しながら連綿として交代していく様は、宇宙のあらゆる諸現象は生成消滅するものであるとの考えを産む。これが陰陽五行の思想の根本である。
これだけ見ると天文学的構造を持っていることが分かる。こうしたものは西洋占星術のルーツにも見られ、どうやら未来を見たいという人の願いを、占いという形で示す方向に変わっていくのは当然の成り行きのように見える。それが多くの迷信を生み出すことになるのもまた当然の成り行きと言えよう。
かくして、この思想が暦法と結合し、干支との組み合わせによって多くの迷信を生み出すことになる。日本においては奈良時代前期に日本に輸入され内実は迷信的色彩の濃いものであったにも拘らず、次第に日本人の生活様式や物の考え方に強い影響を与えるようになり、江戸時代に至っては、天には五惑星、地には五行、人の心には五常(仁礼信義知)といった精神構造をも形成するまでに、その影響を及ぼしていった。
(参考文献:現代こよみ読み解き事典)