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 浮世絵三態

 今年2月「浮世絵を楽しむために」でも紹介した江戸文化の華とも言える浮世絵だが、これまで塗り絵の中心に置かれてきた三人の浮世絵師の印象を改めて思い返してみた。文章の重複する部分はご容赦願いたい。
 塗り絵の原版は古い版画をコピーし、元絵を見て想像した元色を決めて、勝手に復元しているわけだが、版画に限らず色は経年で退色することを免れない。想像によって色を戻すわけだから、元になるのは線に囲まれた空間だけである。
 版画は共同作品で、版元(スポンサー)、彫師、摺師が作者の作品を仕上げ世に出すという仕組みになっている。こうした版画を見つめ直す塗り絵の過程で、夫々の作者の生き様のようなものが見えてくる。
 歌麿は苦界に身を沈めた女たちを実に精細に描いている。まるで生活の場がそこにあるようにも思える。その世界では居候か客人かはわからないが、特別な扱いを受けていたのだろう。一部「当世美人揃」のような町娘を描いた美人図もあるが、その数は少ない。歌麿描く女性たちは、その柔らかい仕草が如実に表現され、追随を許さない画風を生み出している。「郭(くるわ)」という隔絶された中で遊女たちと共に生活し、生活のすべてを描いている。そのため春画のような作品も生まれ、それが風俗を乱したという罪で投獄され、それが原因で早逝することになるという特異な人物である。
 写楽はさらに謎の多い人物で、そのデビューは衝撃的で、当時の芝居の仕掛け人蔦屋重三郎に負うところが大きいが、寛政6(1794)年歌舞伎を演じる都座、桐座、河原崎座の夏興行に合わせて豪華な黒雲母摺りの大首絵二十八図が同時に発売された。これが第一期の作品で、活動期間は10ヶ月ぐらいで、忽然と画業を絶って姿を消した謎の絵師として後世に名を残している。それでもその間多くの作品を残している。比較的後期に属する作品の中には明らかに筆使いが違い、真贋も囁かれる作品も見受けられる。それはさておき、彼も特殊な世界を題材にしている。それは歌舞伎界である。なかでも大首絵が有名だが、歌麿とは対象的に伝統的歌舞伎の世界なので、その中に登場する女性は男が演じる女形(おやま)である。大首絵は役者の表情がリアルで、今風に言えば山藤章二の似顔絵のようなもので、映画のない時代の大型カラーブロマイドを想像させる作品である。
 最後に上げる人物は葛飾北斎である。富嶽三十六景(実は四十景を超える)があまりにも有名であるが、なくなったのは90歳と、当時としては破格の長命で、数多くの風景画や漫画、植物図などを残しており、後進の指導にも力を入れていたという。その絵は独特の風景画で、極端な 遠近法とデフォルメが非常にユニークで、世界での評価も高い。
 日本全国を行脚して各地の風景を描いているが、その中の殆んどに動いている人(働いている人)が描かれており、極めてダイナミックな構図が目を引く。個人的には70歳から富嶽三十六景を書き始めたというバイタリティーに非常に興味を覚えている。これからも彼らの作品が尽きるまで、探し出して塗り絵の世界で再現したいと考えている。


 


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