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 日本昔話三十一話 金剛院と狐


 昔々ある所に、金剛院という山伏の修験者がおりました。旅をしていて久しぶりに元気よく自分の村に帰って来ましたが、村の入り口の岡の陰に、大きな狐が一匹いい心持ちそうに昼寝をしているのを見つけました。金剛院はそっと抜き足をして、寝ている大狐の傍へ近より、手に持っていた法螺の貝を、狐の耳元で声高に吹き鳴らしました。そうすると狐はびっくりして飛び上がり、転がるようにして逃げて、遠くの草の中に隠れてしまいました。
 これが狐には余程くやしかったと見えて、いつの間にか讐討ちをたくらんでいたのであります。丁度この次の日の晩に、町に修験者の寄り合いがあって、作日還って来た金剛院も出て来ることになっておりました。
 村々の山伏たちは、方々から集って来まして、連れだって町へ出ようとする途で、実に珍らしいものを見ました。 一匹の狐が人の通るのも気が付かぬらしく、他の端に立って水鏡を見ながら、しきりに草や木の枝を頭に載せ、肩に掛けています。「何をするのだろう」とそっと見ておりますと、やがてぶるぶると身を振わせて、忽ち金剛院の姿になりました。そうして足早に何処へか隠れてしまいました。
 「憎い狐じやないか。ああして今に帰って来て、我々を騙すつもりであろう。来たら引っ捕えて松葉いぶしにしてやろう」と相談して、山伏たちは待ち構えておりました。
 本物の金剛院は、そんなことなど夢にも知らず、少し遅れて集会の席へ出て来ますと、「やあ金剛院よく来られた」と言って、一同が手を取ってまん中へ押し出しました。若い山伏が尻を探ったり耳を引っ張ったりします。「何をするのか」という聞もなく、はや誰かが縄を持って来てぐるぐる巻きにしてぶちました。そうして青松葉をうんと焚いて、息が出来ないほど燻したり叩いたりしました。
 金剛院は狐が化けて来たのだと疑われていることを知って、決して狐でないという証拠を色々として見せましたから、ようやくのことで縄を解いてもらうことが出来ました。
 「実は昨日外から帰って来るときに、罪もない狐を法螺貝で驚かしたから、狐がそれを怨んでわざと化るような風を見せて、こうして皆にいじめさせて、仕返しをしたものであろう。もうこれからは昼寝をしている狐を見つけても、決して法螺貝などを吹かぬようにしよう」ということになったそうであります。
(紀州西牟婁郡)2018.2.9






 


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