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 日本昔話三十二話 蛸島の虻


 これもむかし能登国蛸島の湊に、栁何がしという人がおりました。或日一人の若い者を連れて、鯖を釣りに小舟に乗っで冲に出ましたが、面白いほど鯖が沢山に釣れるので、帰ること
も出来ないでいつまでも釣っておりますと、舟を漕ぐ若い者は退屈をして寝てしまいました。
主人はしばらくして、ふと気が付いて見ますと、何処から来たものか三匹の虻が飛びまわって、しきりに寝ている男の鼻の穴から、出たり入ったりしています。こんな冲合に虻などの飛んで来るわけはないがと思って、その若者の寝ているのを揺り起しました。若者が起きていうには、「私は今実に珍らしい夢を見ていました。村の丸堂の中から三体の仏像が、三匹の虻になって飛んで出られたのを、どこ迄行かれるのかと見届けようとしているうちに、貴方がお起しになったのです」と申しました。主人はこれを聴いて、「それはなる程奇妙な夢だ。それでは今日の鯖を残らずお前に上げるから、その夢を私に売ってくれぬか」と言いました。「夢なんかもし買って下さるならば、幾らにでも売りましよう」と言って男は沢山の鯖を貰って、喜び勇んで共々に帰ってきました。柳の主人はその足で直ぐに、村の丸堂という御童のある所に行って見ますと、果して夢の話の通り、御堂の壁の隙間から三匹の虻が、出入りをしておりました。笠を手に持って待っていて、そっとその虻を押えで大急ぎで家に帰り、座敷の中でその笠を除けて見ますと、虻ではなくて一寸八分ほどの美しい三つの御仏像でありました。これを三つとも家に置いては、あんまり欲が深過ぎると思いまして、阿弥陀様は村の勝安寺というお寺に納め、弁天様は湊の外の小さな島に持って行って、今でもそこを弁天島といっております。そうして残りの毘沙門様の像だけは、今でも大事にして、この家で祭っているという話であります。(能登珠洲郡)2018.2.16







 


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