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 日本昔話(第四十二話) 猿の婿(むこ)入り


 昔々ある村の爺が、一人で山畠に出て働いていました。畠が広くてあんまり骨が折れるので、「ああああ猿でもよいから来て助けてくれるなら、三人ある娘の一人は嬢にやるがなあ」と言いました。そうすると猿が一匹ひょっくり出てきまして、せっせと畠仕事を手伝ってくれました。「こいつは困った約束をしたわい」と思って、家に帰ってきて、三人の娘と相談をすると、姉も二番目の娘も、「猿のお嫁には行かれません」と言って怒りました。末の娘だけがやさしい女で、「お父さんが約束をなさったのなら、是非がないから私が行きましょう。嫁入りの支度には瓶(かめ)を一つ、その中へ縫い針を沢山に入れて下さい」と言いました。そうすると次の日の朝は、猿がちゃんと、婿様の着物を着て、約束の花嫁を迎えにきました。嫁の荷物は瓶と縫い針、これを猿の婿が背中に負うて、仲よく話をしながら、猿の住む山へ行きました。山の麓には深い谷川が流れていて、細い一本橋が架っていました。その橋を渡ろうとする時に、猿の婿様が話しかけました。「男の子が生れたならなんという名を付けよう。猿どのの子だから猿沢と付けましょう。女の子が出来たらなんと名を付けよう。この谷には藤の花がきれいだからお藤と付けましょう」。そう言って渡って行くうちに一本橋が細いので、ちょっと手がさわると猿の婿は川へおちました。そうして縫い針を入れた瓶を背負ったままで、水に流されて行きました。その時に猿の婿が泣きながら、こんな歌を詠んだということで、今でもその文句が残っています。
  猿沢や、猿沢や。
  お藤の母が泣くぞかわいや。(備中)2018.6.29

 

 

 

 


 

 

 


 

 

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