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 日本昔話(第四十六話) 黄金小臼


 昔々、奥州、みぞろが沼の片ほとりに、兄弟の百姓が住んでいました。兄は少し愚かで、弟は中々小ざかしい男でありました。それでその弟は兄を追い使って、毎日方々沼の岸へやって草苅りばかりさせていました。
ところが或日のこと、沼から美しい女の人が、手に一通の手紙を持ってきまして、「どうかこの手紙を御駒が岳の麓にある八郎が沼まで持って行っでおくれ」と、その兄に頼みました。「八郎が沼へ行ったら、岸に立っでたんたんと手を叩いでおくれ。そうすれば水の中から若い女が出てくるので、それにこの状を渡せばよい」と言いました。
 男は頼まれでなんの疑いもなく、早速その手紙を持って八郎が沼へ行きました。そうして教えられた通りに手を叩くと、果して沼から美しい女が現れて手紙を受け取って読みました。「みぞろが沼の姉様が、いつもお前の世話になるそうな。この手紙の中に書いてある品物は、今持ってきてあげるからしばらく待っているように」と言って、沼に戻って小さな石の挽き臼を手に持って、再び出てきました。
 「これは二つとないこの世の宝物だけれども、姉の言いつけだからお前に進上する。この小臼に一粒の米を入れてまわすと、黄金の粒が一つ出ます。ただ帰ったら庭の片隅に、小さくとも一つの池を掘って、朝と晩にそれから水をくんで。この挽き臼に供えでおくれ」こう言っで臼を男に手渡して、又もとの沼へ入って行きました。
 兄は小臼を持って自分の家に帰り、毎日一粒ずつの黄金を臼から出して、楽々と暮すようになりました。弟は兄がこの頃草苅りにも行かず、楽に暮しているのを不審に思って、そっと覗いて見ると、妙な臼をまわしています。それで兄の留守にやって来て、仏壇の隅からその小臼を見つけ出して米粒を一つ入れでまわして見ると、忽ち黄金の粒が出るのでぴっくりしました。
 しかし欲の深い弟ですから、それだけで済ましておくことが出来ず、一度に沢山の金を取って置こうと思って椀に一杯の米を打ち込んでその臼をまわして見ました。そうすると小臼はころころと転がって、段々に外へ出て、庭の隅に掘った小池の中へころがり込んで、とうとう見えなくなっでしまったということであります。(陸中江刺郡)2018.9.23

 

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