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 日本昔話(第四十七話) 奥州の灰まき爺

  

 むかしむかし奥州のある在所に、やっぱり善い爺と悪い爺とが、隣りどうしに住んでいました。二人の爺は同じ晩に、川の流れに雑魚を捕る笯(どう)というものを掛けて置きました。上の爺が朝早く行って見ると、自分の笯にはただ一匹の小犬が入り、下の爺の下の笯には、沢山の雑魚が入っていましたので、その笯の雑魚を皆取ってしまって、それへ自分の笯に入っていた小犬を投げ込んでおいて、知らぬ顔をしてきました。後から下の爺が川に行っで見ると、自分の笯には可愛らしい犬ころが、入って鳴いているので、取り上げて家へ抱いてきて育ててやりました。椀で食わせると椀の大きさだけ、鉢で食わせれば鉢の大きさだけ、毎日々々大きくなって、少し経つと爺の山へ行くときに、色々の道具を背なかに背負って供をして行くようになりました。ある日その犬は、山で爺に鹿を捕ることを教えてくれました。爺が大きな声で「あっちのししもこっちさ来う、こっちのししもこっちさ来う」と呼ぶと、方々から鹿が集まってくるのを、一つ一つその犬が噛み殺して、それを背負って帰ってきました。爺と婆とがそれを鹿汁に煮て食べていると、上の家の婆がやってきてその話を聴いて、「それならば俺たちも鹿汁が食べたいから、犬を貸してくれろ」と言って連れて行きました。
 次の日上の爺は犬を連れて山へ行きました。犬が「付けろ」とも言わぬに「これを持てあれを載せろ」と、斧だの鎌だの色々の道具を犬の背に負わせて、「やれ急げそれ行け」と追い立てて山に入り、自分は『しし』というのを間違えて、「あっちの蜂もこっちさ来う、こっちの蜂もこっちさ来う」と、大きな声で呼んだものですから、山中の蜂が皆飛んできて、上の爺を刺しました。上の爺はそれをみんな犬のせいにして、腹を立ててその犬をぶち殺して、『こめ』の木の下にいけて帰って来ました。
 下の爺はいつ迄も犬を返して来ないので連れに行くと、上の爺はうんうん唸って寝ていました。「あの犬のお蔭でおれはこんなに蜂にさされてしまった。あんまり僧いから殺して『こめ』の木の下に埋めて来た。犬が欲しくば『こめ』の木の下に行って見ろ」と言いました。
 下の爺はそれを聞いて大そう悲しみました。そうして山に行ってその『こめ』の木を伐って来て、その木で摺り臼を作って、婆と二人で臼を挽きながら、こういう歌をうたいました。
じんじ前には金おりろ
ばんば前には米おりろ
そうするとその臼唄と一緒に、爺の前には金が下り、婆の前には米が下りて、暫くの間に長者になってしまって、二人は好い着物を着て見たり、米の飯を食べたりしていました。そこに上の家の婆が又やって来て、「何処からそんな好い物ばかり、出して来たのか」と尋ねました。「なにさこれはお前の所の爺様が、犬を殺してほうり込んだ山から『こめ』の木を伐って来て臼にして挽いたら、金だの米だのが出たものだから、こうして居申す」と答えました。「それならばその臼を貸してくれ」と、慾の深い上の婆は又摺り臼を借りて行きました。そうして爺と二人で一生懸命に、その臼を挽きましたけれども、肝心の歌の文句は忘れてしまって、
じんじ前にはばば下りろ
ぱんば前にはしし下りろ
と歌いましたので、その唄の通りに臭いきたない物が、幾らでも家の中に流れてきました。爺と婆とはそれを摺り臼のせいにして、ひどく腹を立てて斧で切り割って、その臼を火にくべて焼いてしまいました。
 下の爺は又しばらくしてからその臼を取りにきました。「あの臼は飛んでもない臼であった。家の中をきたない物だらけにして始末におえぬから、切り割って寵の口にくべてしまったぞ」と、上の爺が言いました。「それならば仕方がないから、その灰でも貰って行こう」と、笊を持ってきてその灰を入れて帰りました。そうして灰の笊を畑へ持って行って、畑の側の沼に下りている雁の鳥を目かけて、こう言いながらその灰を撒きました。
雁の眼さあくはいれ
雁の眼さあくはいれ
そうするとその文句の通りに、雁の目の中に灰が入って、ころりころりと死んでしまいます。それを拾って帰って又婆と二人で、仲よく雁汁をこしらえて食べていますと、又々上の婆がきて「どうしてそんなうまい物を食べているのか」と聞きました。「お前たちは俺の所の臼を切り割って燃してしまったから、その灰を持ってきて、撒いて見たら沢山の雁が落ちた。それを拾ってきて、こうして雁汁にして食べている」といいました。
 それならば少しばかりその灰を分けてくれと言って、又上の婆が爺に真似をさせました。上の爺は婆に教えられて、向い風の強い晩に屋の棟に上って、空に向いて灰を撒きましたが、やはり大切な文句を忘れてしまって、
じんじ眼さあくはいれ
じんじ眼さあくはいれ
と大きな声でどなったものですから、灰は文句の通りに爺の目の中に入って、爺は盲(めしい)になって屋の棟からころころと落ちてきました。雁の落ちて来るのを今か今かと、待ち構えていた上の婆は、それを雁だと思って大きな槌で打つたという話であります。(陸中江刺郡)2018.10.2

 

 

 

 

 

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