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 日本昔話(第五十四話) 旦九郎と田九郎

 

 昔々、旦九郎と田九郎の二人の兄弟がおりました。兄の旦九郎は金持ちで智慧が足らず、弟の田九郎は悪がしこい癖にいつも貧乏でありました。或日弟の田九郎の家では、茶釜の湯を沸かして余りに煮えくりかえるので、暫く板の間におろして置きますと、そこへちょうど兄の旦九郎が遊びに来ました。「おやこの釜は珍らしい釜だな。火もない板の上でぐらぐらと湯がわいている」と兄が言いました。「それは私が今度手に入れた火なし釜という宝物です」と田九郎は答えます。それならば十両で私に譲ってくれと言って、大急ぎで旦九郎はそれを持って帰って行きます。そうしてよく洗って水を入れて、板の間に置きましたけれども、いつ迄経ってもお湯はわきません。旦九郎は怒って田九郎の所へ談判に行きました。そうすると田九郎は「そんな筈はない。が、もしや兄さんは茶釜を洗いはしませんか。なに、洗いましたか。洗ってしまってはだめだ。洗いさえしなければお湯が沸いたのに、惜しいことをした」と申しました。
 その次には又田九郎は、小判を二枚、馬屋の中へほうり込んで置きました。それを又兄の旦九郎が来て見付けて、「おやこの馬は小判をひっている」と言いました。「それは私の秘蔵の金ひり馬という馬です」「それならばおれに金五十枚で、是非売ってくれ」と、代金を払ってさっさと引いて行きました。そうして立派な厩(うまや)を新しく建てて、外へ行かぬように繋いで置きました。併しいくら待っていても、小判などは落としません。「又だましたか」と大そう腹を立てて、早速弟のところへ掛け合いに行きますと、「兄さんの家ではもしや厩を建て直して、板の上であの馬を飼ってはいませんか。ああそうですか、それは残念なことをした。あの金ひり馬は板張りの厩に繋いで置くと、たちまちただの馬になってしまう馬です」と、田九郎は答えたそうであります。201812.9

 

 

 

 

 

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