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これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。

 筆まかせ抄現代訳 第二十八話 日本の小説(1)


 日本の小説類は紫女清女(*紫式部と清少納言)の時代に栄え、その後衰えた。徳川時代の中頃よりまた新たに芽を出し、西鶴などを元祖として次々に発展の度合いを高めて行った。其磧(*江島其磧)、自笑(*八文字屋自笑)、京伝(*山東京伝)などの浮世草紙の著名な人物が輩出した。その中で一世を風靡し、小説世界に一世代を築いたのは馬琴(*滝沢馬琴)である。その後一九(*十返舎一九)、三馬(*式亭三馬)、種彦(*柳亭種彦)のような作家も新時代を築いた。近世に入り流行した春水(*為永春水)の人情本(* 春色もの)ほど甚だしい(*ことここに極まれり)ものはない。
 明治維新の騒動があって、こんな閑な事業に従う者はいなくなったが、ようやく世間が静まって人々が胸をなで下ろした頃。新聞に小説を掲載する者が出てきて、時々は西洋の小説を翻訳する者も出てきた。そうは言ってもその文体といい、その脚色といい、その多くは馬琴の跡をなぞるのに止まり、少しも進歩の模様が見られない。この見通しのつかない小説界に一点の光を灯したのが、世間をあっと言わせた「経国美談」(*矢野龍渓の政治小説)である。しかしながらこの書物はもとより小説の専門家の作品ではない。今から見ると本当に幼稚なもので、小説の模範となるべきものではないが、この本が日本人の小説を好む気持ちを奮い立たたせ、その発達を促進したのである。少なくとも天下万民が世の中に小説なるものがあるという注意を喚起したことはまぎれもない事実である。であるからと言ってまだこれは手本とするには値しないものである。続く。2019.9.3

 

 

 

 

 

 

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