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これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。

 筆まかせ抄現代訳 第三十三話 地方の風俗人情(1)


 土地が異なるに従って人気人情が異なるのは、主に気候、地理、習慣によるのである。欧州が激活動的で、東洋が平和なのもこの理由に他ならない。
 そういうことで一地方でも小さく分けてみると、どれほどか違うもので同じ西洋の中でも、英国は商業が活発である。フランスは華麗で親しみやすい。ドイツは実直厳正である。アメリカはプライドが高く物言いも高飛車であるなどの違いがある。アジアの中でもインドは麻酔剤を飲んで眠っているようだし、中国は大きな象がのしのしと歩くのに似ている。
 日本はこれらに較べれば多少活発で有為の気象(*四季がはっきりして移ろいやすいことか)に富んでいるせいか軽薄でそのうえ剽きんであるなどの特色がある。
 またイギリスでもスコットランド人はよく勉強し、アイルランド人は常に怠けものであるように、日本の中でも地方によってその違いは著しい。しかし日本人は最近までは封建制度のもとで支配され7国内は数十藩に分かれていたから、その違いは他国と比べても一層激しく、一里か二里しか離れていなくても藩が違うだけで人情風俗には雲泥の差が見られる。こうした例は今の世になっても珍しいことではない。
 私はいまだ全国漫遊という志を果たしていないから、その詳細を知ることはできないが、概ね(おおむね)次のような傾向があると理解している。
 東京は人の気性は活発で侠気(*おとこぎ)を帯びている。いわゆる江戸っ子と称する気性を備えている。京都人は利己心が強くて、人情は薄く総じて嫌味が多い(*随分と手厳しい。恐らく寮生活での先輩からのいじめが裏にあるのか)。大阪人はそれよりもっと利己心が強い。金さえ手に入に入るならどんな恥も甘んじるところがある。江戸っ子は意気地なし。東方地方は土地が開けていないが、人心は質朴である。
 水戸人はと言えば多少漢学を修めており、また漢学者と称している人でも和学を知らないものなどいない。これは水戸黄門様より出ている美風であろう。人間も一般的に正直であるが、欠点が一つある。それは愛郷の強さである。愛郷心はもとより悪いことではないが、その極みとして同国人(*同郷の者)を非常に崇拝する風潮があるのは惜しむべきことである。続く。2019.10.20
 

 

 

 

 

 

 

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