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これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。

  筆まかせ抄現代訳 第三十四話 地方の風俗人情(2)


 愛知はかなり学生を送り出している。何か原因があるのだろう。濃州(*美濃:岐阜県南部)、勢州(伊勢:三重県)のあたりは人情が軽薄で金に細かい風潮があるということだ。
 新潟県はお隣の秋田とは違い狡猾(*ずる賢い)だという。またこの国の女性の顔の色白さは人が知るところであるが、国柄として女性を貴ぶ(たっとぶ)風潮があり、雇用の賃金も女性の方が高く、女の子を3人持てば1万円<時価約3900万円ぐらい≻の財産を生み出すと言われるぐらいで、不重生男重生女(* 男を産むことを重んじないで、女を産むことを重んじる)という言葉(*漢文の一部)があるくらいだ(これは佃氏の話である)。
 加賀(*石川県)は昔から学問が盛んで、その上算術を重んじたので、今日においても学者の輩出においては一番である。殊に数学に長ずる者が多い。
 山陽(*兵庫県南西部から山口県までの本州瀬戸内海側)の人はにやけて、淫乱(*助平)である。とりわけ長州(*山口県の西半分)、防州(*周防(すおう)国の異称:山口県の中央部から東半分)あたりの人は利口だが極めて狡賢い(ずるがしこい)ことは人の知るところである。
 四国の中でも土佐(*高知県)だけは他の3国とは違って、活発有為豪放磊落(活発で役に立ち、気持ちが大きく快活で、小さなことにこだわらない)の気性がある。伊予人(*愛媛)は多少小賢しいところがあるが、その代わり少し狡いところがある。しかし、この狡猾さは松山地方より西に行き宇和島近辺の方面で甚だしいように思える。
 九州はいわゆる九州男児の気風があって磊々落々(らいらいらくらく:心が非常に大きく朗らかなこと。小さなことにこだわらないさま)胆大(肝っ玉が大きい)の気性があって愛国心が強い。従って団結する時は他国人の到底及ばないところであるが、その弊害として他国人を蔑視し自国の事を依怙贔屓(えこひいき)して、ことに団結力の強さを頼みとして横行(*勝手気ままに振舞う)するという野蛮な風習がないとは言えない。しかしこの中で除外されるのは大分で、模範(タイプ)とも言えるのが薩摩(鹿児島)であると言ってよい。薩摩の隼人人種の正直一図(正直で一途なところ)で豪気である。胆力があることは誰もが認めるところであるが、その代わりに知恵の働きは鈍く、他国の人を下等動物のように思い、また淫乱に耽る(*性道徳が乱れているさま)傾向があることは論を争うまでもないことである。
 これを以て東北は正直なところは犬のようであるが、ひとたび怒ると飼い主の手を噛むことがある。
 畿内中国(関西地方と中国地方本州の西半分)は狡賢いところは狐のようで草で馬糞を包んで饅頭だといって人を騙すところがある。
 四国人種の敏捷さは猿のようである。模倣にも巧みであるが意地悪いところがある。結果大業を成すほどのものではない。
 九州人種は勇猛なるところは虎のようである。進むところに前なく、向かうところに風が生まれる。千里を横行し百獣潜伏する。しかしながらその知恵の足りなさが狐の手先に使われることがある。このことを「虎の威を借る狐」という。 2019.10.27
 

 

 

 

 

 

 

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