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これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。

  筆まかせ現代訳 第四十話 大三十日の借金始末(2)


 私はこうして駿河台にある三並氏の下宿に行き除夜を送った。「仮人邸宅作新年(*知らない人の家で新年を迎える)」などと洒落のめす。
 さて元日ともなれば人の家の雑煮、餅を食って腹を肥やした後、三並氏と共に久松邸に行く途中で清水氏に合った。「昨日の戦争の模様はどうなった」と尋ねるに、清水氏は例によって微笑顔で話しだした「君が遁走した後、城をでて陣を張らば敵必ず攻めくるであろうと考え、城中に立て籠もって敵対しようということで、奥の三畳で蒲団をかぶって臥していた(この時私たちが借りていた部屋は二間で前六畳奥三畳であった)。そういうことで一度は鬼の足音も聞こえるのじゃないかと、私が狸寝入りしているので仕方なしに、部屋をのぞいて帰っていった。私はやり過ごしたと思って、なおも息を殺して潜んでいるうちに正午となると、下女が膳を持ってきて枕元において立ち去った。私は飯は食いたいけれど、今まで寝ていて、ちょいと飯だけ喰ってまた寝るというのは、いくら僕だって恥ずかしいじゃないか。ついに我慢して昼飯も晩飯も喰わないというのは実にひどかったねえ。敵に攻め殺されるのは免れたけれど、僕は飢えに迫られて死ぬ心地がしたもんだ云々」と話した。
 「翌日はまさか催促はしないだろうと思って、雑煮を食わせてもらったのだが、どうも間が悪くて困ったもんだと『元日や昨日(きのう)の鬼が礼に来る』という位のものだから、雑煮の席で『あの借銭はいつ払うて下さる』というはずはないけれど、昨日一日籠城した男が今日は雑煮を5杯も6杯もおかわりしてもらっては、間の悪さはわかるだろう」 
 私はなお不都合(*ヤバイ)と思って、元日の晩も麻布に泊まり2日に下宿に戻った。
2019.12.12

 

 

 

 

 

 

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