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郷土の歴史「神奈川区」(4)

第1章 原始・古代の神奈川
2.貝塚をたずねて(1)
三ツ沢貝塚 三ツ沢東町二丁目の住宅街の一隅に貝殻が一面白く散らばっているのを目を引く。それは、へいを越えて隣の駐車場にまで拡がっていた。その幾つかを手にして調ぺてみると、浅海性、砂泥性のシオフキ、比較的サルポウが多かった。ハイガイ、サルポウという貝殼は、アサリ、カガミガイ、サルポウ、ハイガイなどで、束京湾沿岸に数多く点在する繩文時代の貝塚の貝として注目されている(貝の画像1)。
 なかでも「ハイガイ」は、今日では三河湾以西の内海の水深も数メートルくらいの浅海底の細砂泥に接む二枚貝の一種で、アカガイに類し放射肋が17条~20条ある。
ハイガイと暖流の関係は深いようであり、気候との関係について直接ではないにしろ、水温あるいは細流の変化を介して気候の状態を推察する手がかりとなる。神索川区を代表する原始・古代の遺跡といえば、ここに近い『三ツ沢貝塚』は有名である。三ツ沢貝塚は、日本の考古学・人類学草創期の恩人イキリス人医師エヌ・ジー・マンロー(N・G・Munro)により1906年(明治39年)に発掘調査が行なわれて以来、大場盤雄、石野瑛、大山拍氏たちにより、数回にわたり調査研究がなされてきた学問的にも貴重な大遺跡であって、縄文時代の発展期から成熟期にわたる集落遺跡として、その成果は重要視されている。
 郷土で一番古い遺跡
 ところで神奈川区域に、いつ頃から人が生活を営みはじめたのであろうか。 『横浜市史第一 巻』8頁に、羽沢町束泉寺付近のローム層から、多数の礫が水平にならんでいる遺構が発見されたことが記されている。ローム層とは、前述した「関東ローム」層のことであり、約60万年前~約1万年近く前にかけて、箱根や富士が火山活動をしていた際に噴出した火山灰が風で運ばれて堆積したものである。地質学でいう洪積性の地層で、人類史的な尺度でいえば旧石器時代に属する。わが国の旧石器時代の究明は、昭和22年の群馬県岩宿での旧石器時代の遺跡の発見以来、本格的となり、東京都下高井戸の遺跡をふくめると、すでに1000ヶ所を上まる遺跡が知られるにいたっている。
 いずれも土器の伴出をみていないところから、『先土器時代』、『無土器時代』とか 『プレ縄文時代』ともいわれている。生活用具として、石でつくった刃物・利器は登場したものの、ナイフ形石器、石刃(プレイド)、石槍(ポイント)、細石刃(マイクロ・ブレイド) などと呼ばれる程度の石器で、要の使用をうらずける『矢じり』のようなものはみられない。狩猟活動に有効な「飛び道具」である弓矢の使用が本格的に登場するのは、つぎの繩文時代になってからである。いずれにしても、旧石器時代の遺跡遺物については、石器と極少の人骨片以外に、住居跡、墳墓、集落などの状態を知る発見にまではいたっていない。

 郷土の縄文時代
繩文時代というのは、地質年代的には洪積世最後の第四氷期の寒冷な気候に代つて、後氷期の温媛な気候が地球上を支配しはじめ、自然環境が大きく変貎した沖積世になってからで、この新しく変貎した生活の舞台を背景に、生活用具として、「弓矢」や「土器」の出現をみた。
 人間が生活用具の一つとして土器を製作したということは、『人間が物の化学的変化を自覚的に利用した最初の事件』(G・チャイルド*1)として、文化史上画期的なことといわれている。わが国における最初の土器が、繩めの文様をもつ特色のあるところから「繩文土器」と呼ばれ、この土器によって象徴される時代を「繩文時代」という。
 繩文時代は、ふつう早期、前期、中期、後期、晩期の5時期に、また、早期の前に草創期を加えて6時期に区分することが慣用とされている。しかし、岡本勇氏*2は、歴史的な時代区分の指標に立脚して草創期と早期(約1万年前~約6千年前)を「縄文時代の成立期」、前期と中期(約6,000年前~約4,000年前)を「繩文時代の発展期」、中期末ないし後期から晩期の前半まで(約4,000年前~約3,000年前)を「繩文時代の成熟期」、晩期の後半(約3,000年前~約2,000年前に近くまでを「繩文時代の終末期」とされている(『岩波講座日本歴史-原始および古代』)。 千年を単位とする、約一万年間もの長い繩文時代の、それぞれの時期の特色をよくとらえた時期区分といえる。以下この時期区分にしたがって、繩文時代の生活の様子をみることにする。2019.2.12

*1 Vere Gordon Childe、1892年4月14日 - 1957年10月19日)は、オーストラリア生まれの考古学者・文献学者。ヨーロッパ先史時代の研究を専門とし、新石器革命(食料生産革命)、都市革命を提案した。
*2 1953年から1954年にかけて、八ヶ岳南麓長野県南佐久郡南牧村の矢出川遺跡発掘で日本最初の細石刃を芹沢長介、地元の考古学研究家由井茂也らと共に発見した。


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