郷土の歴史「神奈川区」(7)
第1章 原始・古代の神奈川
生活用具としての土器
生活の必要から粘土の可塑性を利用して、すばらしい容器として発明された「縄文土器」も、成立期のものから発展期、成熟期、終末期のものへと当然歴史的な変化をみせている。大きさについていえば、成立期のものはせいぜい30㎝ぐらいの小形の土器であったものも、発展期には60~70㎝の大形の土器の出現をみるまでになる。粘土も粗雑なものから、発展期にはカホン科植物の繊維をまじえたものもあり、成熱期の石英や長石、雲母など細粒石を混入したもの(結果的には土器をもろいものにしているが)、そしてやがては、きめの細かい焼成の良好な土器へと工夫改良がなされてきている。
生活の用具としての土器であるから、要求される用途に適応して当然形も分化している。成立期においては尖底の深鉢形土器に特徴があったが、 発展期には平底のものとなり、片口付土器も現われてくるし、また、甕形土器、皿形土器、椀形土器もつくられ、成熟期にいたるとすばらしい注口土器も作られる。大形土器は貯蔵用器具であったろう。
それにしても煮沸用器としての土器の使用は生食か焼くかの枠を破って、調理法を改良し、食料の範囲も拡大し、食生活を改善した。土器の文様についても成立期のものは無文のものや、或は、文様があるといっても、器面を整形したために残こされた素朴なもであって撚糸文、縄文、貝殻の条痕文程度のものが多い。発展期に近くなると、模様として意識して描き施文したと解釈できるものもみられてくる。粘土紐をはりつけたもの、粘土紐をはりつけその上に刻みを入れたもの、竹管によるものなどである。
成熟期にいたっては装飾も豪華なものとなり、隆起文、三角形の沈刻文、磨消縄文と沈線を組み合わせた曲線文などがみられ、終末期のものとなると、幾何学的な施文が多くなる化粧粘土を用いて よく器面を磨き、工字文などの入組文がみられ洗練された素晴らしい模様となる。
縄文時代人の意職の世界は、土器の文様、装飾、土器以外の土製品などの造形にうかがうことができよう。例えば、蛇身把手、獣面把手、人面把手(写真10) 土器。イノシシ形の土器、巻貝形の土製晶。きれいな透し彫り文様の土製の耳飾り。土板。女性を形どったいろいろな土偶(一種の人形)に観念の世界をのぞくことができる。 狩猟'漁撈'植物採集などつよく自然界に依存した食料採集民としての生活の域を脱しきれない諸間題は、生産力の発展と食料資源の枯渇化という矛盾として強いものがあり、自然とのたたかいにおける無力感は、自然物崇拝という原始的宗教をはぐくみ、 呪術の力が人々の意識を支配した。
野蛮未開から、やがて文明の社会への移行は、食料採集民から「食料生産民」へと脱した、つぎの弥生時代になってからのことである。
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