02甲州石班澤(こうしゅうかじかざわ)
これも藍の濃淡だけで表現された美しい作品で、国内だけでなく海外でも人気の高い北斎の代表作に数えられる図絵です。単純な色彩なのに、なんと鮮やかなことでしよう。舞台 は禹之瀬と呼ばれる渓谷で、富士川に面する鰍沢の南側にあります。突き出た岩上から漁師が網を引き上げようとしている姿が描かれています険しい岩、激しく波打って泡立っ水 面の様子。それと対比するように、霞の向こうに少し頭を出す富士山の物静かで神秘的なたたすまい自然の厳しさを感じさせる傑作です。

名橋奇覧

03東海道岡崎矢はぎのはし(とうかいとうおかざきやはぎのはし)
東海道の岡崎城下にあった矢作は三百七十メートルもの長さがあり、東海道随一の橋梁としてその名を馳せていました。
下に流れるのは矢作川です。岡崎は徳川家康の生誕地として知られています城下町としても栄え、この図絵でもその賑わいが描かれています

04かめゐど天神たいこはし(かめいどてんじんたいこはし)
亀戸天神の鼓橋は極端なほど形が反った形状が特徴的な橋です。藤の名所としても有名で、この図にも藤棚い描かれています。

05飛越の堺つりはし(ひえつのさかいつりはし)
飛越は飛騨と越中の国境のことで、現在の岐阜県と富山県の間にあたります。険しい山の間にかかる吊り橋を夫婦らしいニ人の人物が渡っています。ニ人の重みで吊り橋は大きくたわんでいますが、彼らは怖いる事もなく慣れた様子です。一つ間違えば命を落としてしまいそうな橋ですが、のどかな雰囲気があふれる作品です。

06足利行道山くものかけはし(あしかがぎょうどうさんくものかけはし)
現在の栃木県足利市にある行道山浄因寺は修験道の修行場であり、山岳信仰の霊場でした。右手に見える一番大きな建物が本堂です。切り立った崖に渡された橋や角張った線で描かれた山など、どこか山水画のような風景です。くものかけはし、というタイトル通り、実際の橋だけでなく、背景に雲の橋のようなものが描かれています。

07かうつけ佐野ふなはしの古づ(こうつけさのふなはしのこず)
舞台は現在の群馬県です。船を並べた上に板を渡しただけの簡易な橋が描かれています。このは当時すでに存在しておらず、「万葉集」で詠まれた歌を参考に、北斎が想像して描
いたものです。雪の表現が美しい作品です

08ゑちぜんふくゐの橋(えちぜんふくいのはし)
現在の福井県足羽市内にかかっている九十九橋を描いたものです。半分が木、もう半分の石で作られた大変めすらしい橋でした。水害対策のためにこのような作りにしたといわれています。遠景には漉いた和紙が干されています。越前は和紙の産地でした。細部には北斎の遊び心も隠されています橋の上を渡る人物の服や風呂敷にある紋が、版元の永寿堂のものなのです。

09すほうの国きんたいはし(すおうのくにきんたいはし)
山口県岩国市にある錦帯橋は三代岩国藩主の吉川広嘉によって作られたもので、日本三大奇橋にも数えられる名勝です。
下を流れる岩国川の強い流れに対するため、上台は石組みになっています。五連のアーチも美しい橋です遠景の城は岩国城ですが、この時代には存在せず北斎が想像で描いたものです。横殴りの雨を線で表すなど、細かい表現も素晴らしい作品です。

10山城あらし山吐月橋(やましろあらしやまとげつきよう)
京都嵐山の渡月が描かれています。今も観光客で賑わいを見せる名所です満開の桜ど松の木が美しい作品です。橋の上にいる人物だけでなく、川を進む船頭も景色の美しさに思わず見人っている様子が描かれています。