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これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。

 筆まかせ現代訳 第五十話 筆頭菜(つくし)狩(1)


 明治23年4月7日天気快晴一点の雲もない。其十(きとう)、鉄山の2氏に誘われて午前9時頃弁当を持ってつくし狩りに出かけた。途中で食パン1斤と少量の砂糖とを買い、弁当と共に交代で持つことにして、その順番は坊主持ちの類のもので、巡査、馬、郵便箱、束髪に合えば交代するということにした。ただしルールとしてこれらについては行き違うものに限定し、行き過ぎるものや追いついたものは無効と決めた。高等中学の前から道を転じて板橋街道に入り1里ほど歩くと人家が段々と疎らになり、終に町はずれに出ると麦緑菜黄(*ばくりょくさいき:風景・景観の見事さ)の景色は並外れていた。
 菜の花やはっとあかるき町はずれ
 鉄山が茶店で一休みしようと持ち掛けた。私は異議を申し立てた「茶店で休憩するのは場違いだ。花の下で休むのが気持ちいいに違いない」と。進む事数町、忽ち(たちまち)発見。街道の右一町余りのところに一株の桃花、実にうつくしく咲き誇っていた。さあここで休憩しようとして畑のあわひ(* 間)を過ぎて木の下に着いた。桃紅に麦緑とは補色の関係にある。空青く菜の花黄色も補色に近い。天然の色の配合は実に宜しきを得たり(*バランスが良い)。春遊の快ここに極まれりといふべし(*春に遊覧する気持ちよさはこういったものを言うのだろう)。
 削除の俳句 立ちのいて見てはやすむや桃のかげ
 ここで食パン半斤を食べた。ますます勇気を奮い立たせて街道に出て、今度は茶店に立ち寄って休もうかと思ったのだが茶店はない。終に板橋に着いてしまった。町はずれから右折して水車場に沿って振り返ると少し広い広場があった。こここそつくしの群生する場所だという鉄山の言葉に従ってそこここと探したのだが、少し時期外れだったが無数の土筆(つくし)がよきよきと林立しているさまは気持ちよかった。
 削除の俳句 一もとのつくしに飛ぶや野の小川 摘草やふさいだ目にもつく々し
 大方は取りつくした後、川端に帽子を敷いてその上に座って、弁当とパンを食べ尽くした。それから野道伝いに進んでいくと、そよ風があたたかく顔に当たって気持ち良かった。
 削除の俳句 菜には蝶麦に雲雀や春の風 どこへ行くも声は真上や楊雲雀 我も画にかかれて見たし春の野辺
 少し立ち止まって鉛筆で景色を写生したりした。
 削除の俳句 春の野や小川の音もただならず  2020.3.6

 

 

 

 

 

 

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