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これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。

  筆まかせ現代訳 第五十九話 上京紀行(5)


 (*部屋に入ると)お定まりの半円形であまり広くない部屋なのに、男一人女二人が部屋の真ん中に座っていた。私はツっと進んでその車座の前に立ち、にらみつけると向こうの女も「オヤ好かねー野郎だよ」といったような風をして私を睨みつけた。「おのれ小癪な」と言ってやろうかと思っている折に、ボーイが「こちらですと」と後ろの方に導いたので、「これはしくじった」と思ったのだが、何食わぬ顔をしてついて行けば、この上等は一人一人別々の部屋だった。その中の一室をあけて私の荷物を棚にのせ「お入りなさいまし」と丁寧にいう。私は三分の一は喜び三分の一は驚き三分の一は恐れて、「入らず」へでも入るようにこわごわ入って見れば、三畳ほどの室で寝台は二重構造になっている。ボーイは直ぐに枕を持ってきて(木枕ではなく空気枕型の藁が入った枕だった)据え付けた。この時の私の喜びはどれほどだったことか。この船は金陵丸というが、翻訳すれば金毘羅丸である。
 去年の参詣が今きいたかと嬉しくて
 小間物をささげし甲斐もありがたや
      金毘羅丸と船も名のれり
 今迄の書生の姿あら神や
      俄かに鼻を高くなしつつ
 2020.5.12

 

 

 

 

 

 

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