これから話す物語は明治の文豪正岡子規が、青年時代から書き始め25年間も書き綴った随筆を、勝手に現代風に変えて読んでもらおうという不遜な試みである。
こうして「飯を替えてくれ」と命ずるために卓を打つ音がここかしこに起こって、百雷が一時に落ちるように耳が人のものとは思えないと疑った(とは法螺を抜きにした事実話である)。また我らの机上の飯は山のように堆く(うず高く)、フライの皿の中、ソースの海は肴を漂はせるばかりである。撃卓の音が部屋中にこだまして、なかなか賄を呼んでも来ないので、これを良い口実にして、卓の間を走り回る給仕たちに飯櫃の蓋を投げつける奴もいたりした。木札を叩きつける者も出た。また木札を卓に打ちつけるぐらいでは河童の屁のように響くだけであるので、終いには飯櫃で卓を叩いたり、靴で床を鳴らすことさえ盛り上がっとぃった。この時食堂の中はただガンガンと割れるばかりに響き渡るだけだったのだが、その声を分析すると次のようになる。
1つ 「賄ひ賄ひ」と呼ぶ声、またや賄ひを捕えてその遅緩を責める声
1つ 木札で卓を打つ音
1つ 飯櫃またはその蓋をもって卓を打つ音
1つ 靴で床をグッタグッタと鳴らす音
1つ 飯や肴(*おかず)をムシャムシャと喰う音
1つ 隣生(*隣の生徒)と何か目論見を話し、あるいは景況(*場の雰囲気)を見て喜んだりする声
1つ ブリキの茶瓶で机を打つ音
1つ 腰掛けを使って床を打つ音
1つ 給仕人のわびしい言い訳をする声
1つ 給仕人の一生懸命にかけまわる音
この他にも給仕人に木札などを投げつける音、卓上に飯をぶちまける音などを上げることができるが、それ以上は省略する。。
2020.6.19