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郷土の歴史「神奈川区」39

神奈川区誌最終章(6)
 神奈川区誌の記録も今回のシリーズをもって幕引きとさせていただきます。区誌本編では現代まで続きますが、それは割愛し、これから紹介する「神奈川滞在記 ロバート・フォーチュン」が最終章となります。

6 神奈川滞在記(6)
 樹木の多様性  この地方の森林を構成している樹木の多数は、私がかつて長崎付近で観察したものと同一である。 最も大さく、有用な樹木と思われるのは、クロマツ(Pmus Massoniana)、アカマツ(P.densiff)、モミ(Abia firma)、サワラ(Retinospora Pisifera)、ヒノキ(Robtusa)、スギ(Cryptomeria japonica)などである。 スギは非常な大木に成育し、イギリスでは珍しい木である。
 アスナロとコウヤマキのことはすでに述べた。イチョウ(Sausburiaadiantifolia) の木は、どこの寺にもよくあるもので巨木になる。日本人はシナ人と同様、性来イチョウの果実を好み、日本の店では「ギンナン」、シナでは「パックオ」または「白い果実」の名で知られている。
 常緑の力シの木は数種あるが、この地方の森の中にはどこにでもある。 カシはかなりの大きさに成育するが、風致林としては一番である。 クリの木も数種類あって、ありふれた植物であるが、ある種のクリ(Casania japonica) の葉は養蚕に使われる。
 カエデもやはりどこにでも自生する木で、葉は種類によって、さまざまの色に彩られるが、秋になると、みな深味を增して、日本の国は鮮麗な目のさめるような景観を呈する。前に記したが、ニレの木は恐らく日本では、木材としての価値が大きい。シーボルト博士が数年前に欧州に送ったが英国の気候に適しているかどうか、私はどちらも聞いていない。
 灌木の仲間で、普通に見られるウツギ(Weigela) の一種をはじめはツンべルクのウイゲラと推定していたが、その後コネウツギ(W.randifiora) であることが判った。夏咲きの花は、観賞用としても十分楽しめる。 芳香を放つ白い花で雑われるヒイラギ(Csmanthus aquifolius) も見た。それはモクセイ科に属する。 庭に風致を添える常緑灌木である。庭に葉の色がまだら(ふ人り) でセイヨウヒイラギらしく見える一品種があった。これは好もしい灌木で、もし英国の気候に耐えられるならば、人気を博すであろう。(中略)
 地質的特徴 この地方の地理的状況は、長崎とは全く違っている。長崎は同じ緯度のシナの丘陵地とよく似ている。というのは、丘の上層部は一般に不毛で、粘板岩と花崗岩が方々に露出している。江戸周辺でも全く異なる岩層に注目したが、横浜の海辺の崖の下層土については既に述べた通りである。
 日本の内陸は山と谷が両立しているが、「フジヤマ」と呼ばれる有名な山と、近接する他の山々を除くと、山はわずかに標高数百フイートぐらいに過ぎない。夏の主な耕作である稲田の土壊は全く植物質から成り、イギリスの泥炭沼地の土と似ている。
 樹木や草むらの間を登って丘の頂上にたどり着くと、そこは割合平坦な台地になっている。その台地の土質は、低地の土壌と同じで、それはまた泥炭沼地で見られる土質と大差はない。その辺の田地や傾斜地や頂上の台地では、石や岩のたぐいは余り見当たらなかった。




 行きずりの観測者として、この黒土を調べてみると、一見して豊かな作物が生産できる非常に肥沃な土壌と考えられ易いが実際は肥沃な土質ではない。外人は一般的に土壌を見るよりも、その地に生えている植物の状態に注意する。
 私はこの奇妙な成立が、原始の生成であったかどうかを説明することは不可能である。あるいは日本のこの地方が、創成期には泥炭苔の平地であったものが、ある時代の恐ろしい地震で、丘に盛り上がったのだろうか。どちらにしても、日本は恐怖の地震国として有名なことには変わりはない。伝説によれば、フジヤマは一夜のうちに、14,000フイート以上も押し上げられたということだが、これは地質学者に判定して貰わねばならない。
 灸とハリ ある日散歩からの戻りに、神奈川の本通りである東海道に突き当たる道ばたの茶店で、私の注意をひいた非常に奇異な施術が行われていた。背中をまる出しにした女の両肩の間の皮膚の四カ所に、後ろに坐っていた女が小さな化粧パフのような可燃物をのせて、火をつけていた。こんな施術はヨーロッパ人にとっては、耐えがたい苦悩なことであろうに、ここで治療を受けていた女性は、笑ったり冗談を言つて、むしろ楽しそうにしていた。
 これはケンべルや他の旅行者が、日本に関する著書でしばしば紹介した「モグサで焼く灸術」であった。
 モグサは、 ある書物にはキノコを球にして造るとか、 また他書にはニガヨモギ(WormWood)を原料にしているとも言っている。用法は灸点に小さな円錐形にしたモグサをおいて、その先に火をつける。すると徐々に下へ燃えて、皮膚に火傷を残すが、その火ぶくれがのちに破れて水が出る。 この施術は日本では熱病の予防や治療に大へん有効だと考えられている。 同様にリュウマチ、痛風、歯痛の場合にも効くという。
 シナでは同じような病気の時には、患部を熱いお茶で経法して皮膚を刺戦したり、あるいは首、背、その他の部分を、痛みがやわらぐまで皮膚をもむのである。
 鍼も日本では有名な治療法の一つになっているが灸術のようにそれほど普遍的でもなく、またそのような気持のよいものでもないらしぃ。 鍼は日本の風土病的な腹痛や疝痛の場合によく利用される。 この病気は風によるものと推定されているが、その病因を追放するため、胃腸や他の筋肉のそれぞれの経穴に鍼を打つのである。これらの鍼は非常に精巧で、まるで毛のように纖細で、多くは金か銀で造られているが、時には焼き戻しの技術に熟練した職人は、鋼でもつくる。鍼を打つ時は注意深く神経や血管を避けて皮膚や筋肉に突き刺すのだから、実際、鍼医はある程度の解剖学の知識を持たねばならぬことは自明である。

2020.1.16



 
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