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郷土の歴史「神奈川区」41

神奈川区誌最終章(8)
 神奈川区誌の記録も今回のシリーズをもって幕引きとさせていただきます。区誌本編では現代まで続きますが、それは割愛し、これから紹介する「神奈川滞在記 ロバート・フォーチュン」が最終章となります。

 神奈川滞在記(8)
 シーポルトの「日本植物誌」の挿画で知つていたセンノウもまた花盛りだったので、採集品に加えた。 このセンノウはどこの田舎家の庭にも植えられて、花の盛りはひときわ優美である。 その葉はムラサキッュクサに似たスミレ色で、花は炎のように輝く鮮赤色である。
 これには花が赤と白と縞のはいった三種類がある。 いずれも観賞植物であるが、特に花に縞のあるものがすぐれている。
 同時にアジサイも見たが、スイカヅラの一種でキンモンニンドウ(Lonicera areo,reticulata) というのもあった。 ちょうど路上で行商人が、おもに大輸の夏ギクを幾種類も売つていたが、中にはポンポンギクという種類もまじっていた。 同じようにアヤメの花を売り歩いていたが、この花は日本人に大へん好まれ、佳い品種も豊富である。
 神奈川と横浜の市場に新鮮なキュウリやナス、二、三種のしゅんの豆類やフランス豆の一級品があった。 日本の夏の果物は数も少なく、品種も劣っている。
 初夏には野生のキイチゴとビワがある。 少し後れて二種類のウメや貧弱なモモ、アンズ、マクワウリが出る。
 概して日本の夏の果物は、イギリスで裁培したものよりひどく劣っている。 しかし、最近の条約によってイギリスの生産品の見本を日本人に提供できることになったので、遠からず日本の果物や野菜の品質改良の時期が到来するにちがいない。
昆虫類の報告
 六月いっぱいは最適の昆虫採集期であった。 湿つた空気と暖かな陽光は無数の昆虫を生む。 在来種のカブトムシは、何千というくらい、木の葉や花から振るい落される。チョンガーと私は連日、多数の人に手伝ってもらって、収集を增加した。多数の箱は珍しい昆虫でいっぱいになったので、西洋の昆虫学者に予告して、喜ばせたいと思っている。 私は興味ある種属の命名に関しては、次の手紙によって、ロンドン・ブルームスバリー街のスチブンス氏に負う所が多い。貴君が日本から持つて来た最良の昆虫は、アダムラ氏がDamaster Fortuneiとした青マイマイカブリ(新種)も包含される。




 しかし、本当のオサムシの三種類に関しては何も記載がない。マルクビゴミと同類の新種のオサムシ (Carabi)類、 二種類のミヤマクワガタ(Lucani)とオジカカブトムシ、数種のきれいなヒゲナガオトシブミ(Longicorns)、ムネマルクロカミキリ(Spondylus) は、 フランスやドイツで見付けた種類に類似しているので興味がある。 別の甲虫類の数種は、 イギリスで見た種類に酷似している。そのうちの二、三種はイギリスのと同一である。イギリスにはこのほかに大変美しい、明らかに新種の蝶類、ムラサキの種属と、きれいなA.Iris(ムラサキ)の王者と同属の蝶がいる。その他の日本の蝶はイギリスのものと酷似しているが、別にシナの北部や南部で見た類似のものもある、 これらの多数の昆虫はシナで見たものとよく似ているが、 カブトムシ(Dynastes dichotoma)も含めて、若干のものと同一である。
ある日の午後、私は、田舎の人が多勢木陰にすわって、大きなイモムシから、腸のようなものを取出す作業に精を出している所へ行き合わせた。その虫は長さが四インチもあって、背の方は濃緑色で、白い腹部には長い白い毛が生えていた。その虫はこのあたりの丘一帯に分布しているクリの一種を餌にしている。籠に入れた虫が、大量の葉を食う速度から判断して、うまいに違いない。その作業の変わった点を話すと、この虫は、蚕が絹糸を吐いて繭をつくるように、成育することはできない。その代わり、個々に生きたまま腸を抜かれ、二本の短い糸のようなものが、体から取り出される。これらの糸は約三インチの長さで、初めは粘液性の脂肪様のもので包まれている。しかし、酢酸溶液に浸すと、この脂肪様物質は容易に除去され、糸は最大限の長さに引き伸ばされる。私がその場で測つた一本の長さは、たっぶり五フイートもあった。これらは日本ではかなり需要のある釣糸(*テグス)の製造に多く使われているという。 この糸集めに従事している田舎の人達が、この糸で衣服の布地を織るとも言った。 けれども実際間題として、そのような布地は非常に高価につくから、私は疑わしいと思う。

2020.2.3



 
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