以下の記述は2018.5.26~6.16にわたって綴られた「笑に」関するコラムで全7回掲載したものである。
ここでは終始笑の効果について「顔で笑って心で泣いて」という状況においてすら笑は人を心身共に健康にする源泉となると強調している。今のコロナ禍にあってお笑い芸人が主力の座を得ている。トーク番組のMCなどにもお笑い芸人が多く見られる。こうした状況は人の自浄効果を促すことにあるのだろう。
2018.5.26 笑い (1)
「人の人生に笑いあり、涙あり」と言うが、笑いという字はいかにも人が笑っているイメージが浮かんでくるから不思議だ。このHPでも紹介している字源では、この字は象形文字分類され「巫女が手をあげ髪を振り乱して舞う姿による」((イメージ字源)とある。狂喜乱舞する巫女の姿はちょっと恐ろし気な感じがしないでもないが。
『笑う門には福来る』という喩にもあるが、生活の中で笑いは欠くことのできない要素で、人に大きな潤いを与えてくれる。
健康の上でも大きな効果をもたらすことが解明されている。笑いに対する研究をしている学者も多く見かける。そうした人たちが唱える「笑いの効果」や「笑いを生み出す方法」などについてピックアップしてみた。
「アッハッハ」と大きな声で笑うと、心も身体も軽くなりスッキリとした爽快な気分になるのは、だれしも経験したことがあるだろう。
こうした笑いを健康法として採り入れているのが「笑いヨガ」という体操法で「ホッホ、ハハハ」という一定の笑い声のリズムにのって手拍子をしながら身体を大きく動かすことで、笑いを積極的に行うヨガになっているというものである。イメージで示したような象形文字は、そんな状態を絵にしたものである。この「笑い」には精神的なストレスを解消したり脳の機能を活性化したりする効果が実証されているので、日頃から積極的に笑うことが元気に生活するための秘訣である。
この笑いの健康効果を医学的に実証して注目されているのが「すばるクリニック院長の伊丹仁朗先生の提唱する""笑い"の健康効果とその仕組み」である。
この先生の説は「"笑い"がNK細胞を活性化して 体の免疫力をアップする!」という見出しで、「人間の体内にはNK(natural killer)細胞が50億個もあり、その働きが活発だとがんや感染症にかかりにくくなると言うもので、人が笑うと、免疫のコントロール機能をつかさどっている間脳に興奮が伝わり、情報伝達物質の神経ペプチドが活発に生産されることになる。"笑い"が発端となって作られた"善玉"の神経ペプチドは、血液やリンパ液を通じて体中に流れ出し、NK細胞の表面に付着し、NK細胞を活性化する。その結果、がん細胞やウイルスなどの病気のもとを次々と攻撃するので免疫力が高まるということになる」というものである。
次回は引き続き、笑いの健康効果について検証する。
2018.5.29 笑い(2)
これは50有余年前とずいぶん昔の話になるが、桜木町の駅頭で上半身裸で「笑いは健康の元」といったような幟を立てて「アッハッハッハ、アッハッハッハ」大声て笑って人目を集めていた老人がいた。噂ではこのような姿で全国行脚しているということで、強く印象に残っている。
その姿を思い起すと、笑いは確かに健康に良いようである。不思議なことに若い頃はよく笑ったが歳と共に段々と大声で笑わなくなり。この頃では大声で笑うとか「腹を抱えて笑う」ことなど無くなってしまった。それと関連するかのように身体からエネルギーが抜けていくようで、病気などしたり、足腰も弱くなってきた。
"笑い"のプラス効果はいろいろあって、前回紹介したような身体の免疫力が高まるだけでなく、ほかにも体にさまざまな良い効果をもたらすことがわかっている。そこで、前回に引き続きその効果を紹介する。
笑いの効果として、血行促進や記憶力アップにつながると言う説がある。それはどういうことかというと、「思いきり笑ったときの呼吸は、深呼吸や腹式呼吸と同じような状態になる。体内に酸素がたくさん取り込まれるため、血のめぐりがよくなって新陳代謝も活発になる」とか「"笑い"によって脳波のなかでもアルファ波が増えて脳がリラックスするほか、意志や理性をつかさどる大脳新皮質に流れる血液量が増加するため、脳の働きが活発になり、記憶力がアップする」との説がある。
他にも効果があるので続けると「幸福感と鎮痛作用がある」これは、「笑うと脳内ホルモンであるエンドルフィンが分泌される。この物質は幸福感をもたらすほか、"ランナーズハイ"の要因ともいわれ、モルヒネの数倍の鎮静作用で痛みを軽減する」という説もある。
何よりも笑いの効果は、自分自身がポジティブに"笑える毎日"を生み出すことで、日ごろから自分でおもしろい話を考えて周囲の人に話し、一緒に楽しむことが、その秘訣だという。次回は「笑いに関する言葉」をテーマにする。
2018.6.2 笑い(3)
今回は「笑いに関する言葉」をテーマにすることになっているので、『笑』を含む成句やことわざを探し出し、どういう内容の言葉になっているかを検証してみる。
先ず「故事・ことわざ」から上げてみる。
◎来年(明日)の事を言えば鬼が笑う:先のことはわからない。未来のことは予測できないということのたとえ。年末に翌年の抱負などを偉そうに語ると、このようなことわざで冷やかされるものだ。
◎一銭を笑う者は一銭に泣く:わずかな金銭を粗末に扱うものは、いつかそのわずかな金銭に泣くはめになる。たとえわずかな金額でも大事にしなければならないという戒め。私たちの世代は貧しい時代に育ったので、お金の大切さは身に染みて分かっているが、年を取ってから無駄遣いが多くなった。物が無い時代を生きた反動だろうか。
◎今鳴いた烏がもう笑う:今まで泣いていた子どもが、すぐに機嫌を直して笑うこと。幼児は大泣きした後ケッロッとしている。あれはストレス解消なのだろうか。
◎顔で笑って心で泣く:泣きたいほどつらくても顔では笑ってみせるということ。よくドラマのシーンにあるが、こういう状況には逢いたくないものだ。
◎最後に笑う者が最もよく笑う:最初に笑っていた者も最後に泣くこともある。最終の結果が出たあとに笑える者が最高であるということ。最後に笑うというのはかなり意味深で「ほくそ笑む」ばあいだってある。
◎泣いて暮らすも一生、笑って暮らすも一生:同じ一生に変わりがないのなら、なるべく楽しく暮らすほうがよいということ。そう簡単に割り切れないのが人の人生というもので、それこそ「顔で笑って心で泣く」事が多い。
◎笑う顔に矢立たず:笑顔で接してくる者には、憎しみも自然に消えるというたとえ。これは次のことわざとも共通点があり、しかめっ面より愛嬌のある笑顔に和まされるものである。
◎笑って損した者なし:いつも明るくにこにこしている人は、他人に好かれ幸福を招くということ。まさに「笑う門には福来たる」と同じたとえである。もっとも時と場所と相手をわきまえないと「噛みつかれる」こともある。
次回は四字熟語などを含む「笑い」の表現について考えてみる。
2018.6.6 笑い(4)
笑いが生活に欠かせない要素であることは言うまでもないことであるが、引き続き四字熟語や成句に含まれる笑いの表現について考察する。四字熟語は見慣れない言葉が多く。そんな四字熟語があったのかという感が強い。ここでいくつか挙げてみる。
[破顔一笑(はがんいっしょう]顔をほこぼらせてニッコリ笑うこと。懸案材料などが解決したときなどに出る笑い。小説などの表現で見かける。
[笑止千万(しょうしせんばん)]ひどくばかげていておかしいこと。「話にならん」というような表現に使う。
[呵呵大笑(かかたいしょう)]大声でカラカラと笑うこと。豪快笑いのこと。
[唖然失笑(あぜんしっしょう]突然の出来事に驚いて、思わず笑ってしまうこと。
[一笑千金(いっしょうせんきん)千金一笑]美人のこと。一度の微笑みが千金にも程の価値があるということから。
[失笑噴飯(しっしょうふんぱん)]食べている飯を噴き出してしまうほどおかしくて笑ってしまうこと。実際経験した人も多いだろう。
[言笑自若(げんしょうじじゃく)]何があっても決して慌てず、落ち着いていることのたとえ。「言笑」は喋り声と笑い声。談笑すること。「自若」は落ち着いていて慌てないこと。『三国志』「蜀志・関羽伝」より。
[猿の尻笑い]猿が他の猿の尻が赤いといって笑うということで、自分の欠点には気付かないで他人の欠点をあざわらことのたとえ。《類似語》「目糞鼻糞を笑う」「鍋が釜を黒いと笑う」
[笑中に刀あり]うわべは笑って好意を示すが、内に悪意を秘めていることのたとえ。《類似語》「笑中に刃(やいば)を研ぐ」「笑う者は測(はか)るべからず」
[一顰一笑(いっぴんいっしょう)一笑一顰ともいう]顔をしかめたり、笑ったりすることで、顔に表れる表情の変化、顔色のこと。顰(ひそめる)「顰蹙(ひんしゅ)を買う」などにも使われる。薔薇と同様とても書ける文字ではない。
など結構あるものである。今ではあまり目にしないものが多いが、それも「笑い」が、いかに古くから人の生活の中に重要な位置を占めていたかということの証である。
次回は言葉の表現と種類について考察する。
2018.6.9 笑い(5)
今回は笑に関する表現と種類について明らかにする。
笑いに関する表現について、国語辞典では「うれしさ、おかしさ、照れくささなどの感情から、表情を崩したり声を出したりすること」としている。そのいくつかを次に紹介する。
「爆笑・大爆笑」その場にいる人の多くがどっと笑うこと。お笑いなどの演芸場では、このような笑いを取るのが仕事。
「苦笑・苦笑い」苦々しく思いながら笑うこと。まんまと引っ掛かったりするとき思わず出る笑い。
「失笑」あきれて思わず笑ってしまうこと。場の雰囲気をこわすような突飛な行動や発言に対して出る笑い。
「冷笑・嘲笑」さげすんで冷ややかに笑うこと。 あざわらうこと。こういう笑はとかく人の心を傷つける。
「照れ笑い」照れて恥ずかしそうに笑うこと。人に褒められたりするとついこぼれる笑い。
「微笑」声を立てずに少し笑った顔になる。モナリザの微笑み。
「愛想笑い・作り笑い・お世辞笑い」相手の機嫌を取るために作り笑いをする。揉み手をしながら笑うような仕草。
「哄笑」大口を開けて、大声でどっと笑うこと。爆笑とは類語。
「談笑」楽しく話したり笑ったりすること。同窓会の席が思い浮かぶ。
笑いの種類は笑の表現とも重複するが、他の動作と組み合わせる笑い。
「泣き笑い」泣きながら笑うこと。よく人生は泣き笑いしながら年を重ねるなどという。
「思い出し笑い・独り笑い」楽しかったこと、おかしかったことなどをひとりで思い出してにやにや笑うこと。年を重ねるとこうした笑いが増える。
「忍び笑い」声を立てないよう、こらえながら笑うこと。箸が転んでも可笑しい思春期の娘たちは、何でも可笑しいものだ。
「含み笑い」口を閉じ、声をくぐもらせるようにして(ほかに意図があるような笑い方で)笑うこと。意味深な笑い。こういう笑に騙されてはいけない。
「薄ら笑い」相手をバカにして薄笑いすること。冷たい笑いの一種。
「高笑い」高らかに笑うこと。 嘲笑ったり勝ち誇ったり少し歪んだ感情を含んだ笑い。
「追従笑い」こびへつらって作り笑いをすること。おべっかを使うこと。
「貰い笑い」他人の笑いに誘われて笑うこと。貰い泣きの反対語。
「誘い笑い」自ら笑うことによって笑いを増幅させるテクニックのこと。
など笑いの表現と種類について見てきた。次回(笑い最終回)は声を出して笑う「アッハッハッハ」のような擬声語(オノマトベ)について取り上げることにする。
2018.6.13 笑い(6-1)
笑い(最終回2回に分けて掲載)は声を出して笑う「アッハッハ」のような擬声語・擬音語・擬態語(総称してオノマトベという)について取り上げる。
人の笑い声にも冒頭の「アッハッハ」豪快で楽しそうなものと、「イヒヒ」といった陰険な笑いもある。五十音別に笑い声とその意味するところを紹介する(日本語オノマトベ辞典)。
ア行
「アッハッハ・アハハ」快活に大声で笑う声。口を大きく開けて高く笑う。明るく豪快に大声で笑う声など非常に健康的な笑いで、気分転換にもなる。
「イヒヒ・ウヒヒ・エヘラエヘラ」ごまかしや、きまずさ、いやらしさを含んだ締まりにない笑い。
「ウッシッシ・ウハウハ・ウヒヒ」うまくやったとほくそ笑む。大儲けして大声で下品に笑う。企みを持った野卑な笑いなど不健全な笑い。
「ウハハ・ウフッ・ウフフ・ウホウホ」大口を開けて笑う・小声で小さく笑う・吹き出し笑い・満足しきって心が浮かれる笑い。などどちらかと言えば健全な笑い。
「エヘヘ・エヘラエヘラ」卑屈な笑い・締まりのない笑い。これらは卑し気な笑い。
「オホホ」上品で気取った笑い。女性の笑い。
カ行
「ガハハ・カラカラ(カンラカラカラ)」大声で余裕たっぷりな豪快な笑い・豪傑などが戦場で示す笑いの表現で擬態語。
「キャッキャッ・ギャハハ」子どもがはしゃぎながら騒ぐ声・大声で無遠慮に笑う様。
「クーッ(クッ)・クスクス・クスリクスリ」笑いをこらえながらも思わず漏れる笑い・ひそひそ笑い・続けざまに出る忍び笑い。やや抑えた笑いのこと。
「ケタケタ・ゲタゲタ・ケッケッ・ケラケラ・ゲラゲラ」愉快そうに笑う甲高い声・下品な高笑い・相手をからかったり、してやったりと愉快そうに笑う・愉快そうな高い声の笑い・無遠慮に大声で笑う。
「コロコロ」高い声で明るく笑いころげる。タ行以下は次号に続く。
2018.6.16 笑い(6-2)
オノマトベの笑い最終回(その2)はタ行から紹介する。
タ行
「ドット」大勢が一度に声を上げたり、大笑する。応援団の歓声がドット上がるなどと表現する。
ナ行
「ニーッ・ニタッ・ニタリ・ニタニタ」意味ありげな薄笑い。少し気味が悪い「その男はいやらしくニタリと笑った」「あいつはいつもニタニタしていて気味悪い」など。
「ニカッ」歯を出して微笑む様。使用例の少ない表現で大辞林で「菓子を手にしてニカッと笑った」
「ニコッ・ニコニコ・ニコリ」一瞬うれしそうに笑う・うれしそうに笑みを浮かべ続ける・うれしそうに少し笑う。「久しぶりの再会にニコニコ笑いながら近づいてきた」「彼女は振り返ってニコリと笑った」
「ニッ・ニヤッ」喜びを隠しきれず、愛嬌を伴う笑い・声を立てずに意味ありげに短く笑う。「三振振り逃げ。ランナーは一塁ベース上ニヤッと笑って立っている」
「ニヤリ・ニヤリニヤリ・ニンマリ」声を立てないで笑う顔付・意味ありげな薄笑いを繰り返す・一人満足げに声を出さないで微笑む。「外角高めの直球バッター空振り三振。ピッチャーマウンド上でニンマリと笑ってガッツポーズ」
ハ行
「ハハハ・ハッハッ」屈託なく、快活な笑い「過去の失敗談、恥をかいた話などを聞いて、皆ハハハと大笑した」
「ヒヒヒ・ヒッヒッ」気味の悪いまたは下品な笑い・抑え気味に下品に笑う。「ヒヒヒという甲高い声に乗客は一瞬凍り付いた」
「プー・プッ」おかしなことに噴き出す笑い。「それを見て、私は思わずプッと吹き出した」
「フフ(フ)」息を漏らして、自然に出る含み笑い。「中日の岩瀬仁紀(42)に『どうだ、先発をやってみないか?』と言ったことがある。本人は、イエスともノーとも言わず、ただ『フフフ』と静かに笑うだけだった(権藤博の『奔放主義』)」
「へへへ・ヘラヘラ」卑屈に/照れて/軽薄な追従笑い。「あいつヘラヘラ笑ってオレをバカにしやがった」
「ホクホク」満足しきって、うれしさを隠し切れない有様。
これらは言葉にならない笑いであるが、生理学的には「これらはいずれも表情筋の運動によって作くられる。その程度が強まるにつれて口がやや開き、口角が外側方へ引かれ、目元が細くなり、目じりに皺(しわ)が寄る。感情がさらに強くなると、呼吸運動が笑いに加わる。横隔膜が断続的にけいれんすることにより、小刻みに呼気が発せられ、声を伴うようになる」と説明される(Web検索より)。