私が情報化に関わる仕事に携わることになったのは、今から30年ほど前のことである。それ以前も役所の広報課などで情報誌の発行や、啓発活動には関わってきたが、それはあくまで紙であったり、人が行うイベントであったりして、メディアのデジタル化や通信との融合とは性質を異にしたものであった。
30年前は日本はバブルの絶頂期にあり、投資も盛んでその投資先として、情報化社会へと日本を転換させることが最大の有効投資であると声高に唱えられている最中であった。
私も時代の最先端の事業に身をおくことができ、年齢的にも仕事に生きがいを見出して絶頂期にあったと言って間違いない。自分のアイデアや構想が実現することほど楽しいことはない。それが将来どういう末路を辿るかということなど念頭にないのは当然である。ただ発展し続ける未来しか目にはない。人の一生に栄枯盛衰があるように、事業もまた盛衰は必定である。時流を捉え柔軟に対応できる経営体質があれば、例外的に生き残ることはできるだろう。それは組織にそうした体質が備わっていなければならない。これから語るように、私は当時役所に身を置いていた。そこからの出向という形でこの事業に携わった。役所主体の事業体は公共性と利益の追求という相矛盾した立場に置かれている。そうした組織に柔軟で自ら革新していく体質は残念ながら存在しない。成功例があれば、それは奇跡だ。
私が携わった通信事業も華やかなスタートを飾ったが、その時既に崩壊の予兆を見ることができる。設立の出鼻をくじくように大事件が発生した。世に言うリクルート事件だ。この事件には多くの政財界人・有識者が連座し、中でも情報化推進のキーマンが根こそぎ抹殺されることになる。この事件により世界の先端に躍り出ようとしていた日本の通信関連事業は10年の後れを取ったと言っても過言ではない。
この事件について、評論家の田原総一朗氏は著書「正義の罠」(小学館刊)で次のように述べている。
「江副浩正(2014.3 死去)氏がリクルートコスモス株を政財界のトップに譲渡し、そのことが田中角栄氏が失脚したロッキード事件とならぶ大疑獄事件となったことは記憶に残る事件である。当時民営化されたNTT(旧電電公社)はデータ通信事業に大きな一歩を踏み出したばかりであった。社長は真藤亘氏、取締役に式場英、長谷川寿彦氏等は日本の情報化推進のキーマンであった。有識者としては公文俊平東大教授がネットワークシステム構築の指導的立場にあった。
これらの人材がこの事件で法の裁きを受けることになり、活動の場を永久に失うことになった。
他方で、アメリカは日本市場の閉鎖性を指摘し、多くの不平等協定を結び、大量の通信機器(スーパーコンピュータ・クレイ等:下の画像)が日本市場を席巻した。
このことは取りも直さず、日本の自由な発展を大きく阻害することとなり、先に指摘したように日本の情報化の流れを大きくアメリカ追随型に変えてしまったのである。」
現在はアメリカと中国、韓国間で通信機器を巡り特許権等を巡り紛糾している。日本は国内市場のガラパゴス化が進んでいると言われているので、日本の優秀な通信技術を今こそ広く世界に知らしめ、世界を市場として発展していくことが喫緊の課題である。
話を元に戻し、バブルが崩壊し、多くの企業が倒産し、銀行ですら破たんを来たし、金利は1%を割り込むまでに低下していった。自治体が運営する第3セクターと呼ばれる事業体は財団法人が中心であったから、運営資金は基金の利息に大きく依存していた。一般的にはが5%が維持・運営のためのボーダーラインであったから、次々に閉鎖へと追いやられていった。私自身が身を置いていた事業体は自治体と主に銀行や大手電機メーカーの共同出資の株式会社で、人件費はそれぞれの母体企業が負担していた。株式会社とは言え営利を追求するのではなく、パソコン通信を母体とし、それに画像(お絵かきソフト)を付加したネットワークサービスが事業内容である。ソフトには技術が必要でそのための人材育成も家庭の主婦を対象に行った。当初物珍しさもあり、世間の耳目を集めた。パソコン通信はすでにPC-VANやNiftyserveなどの大手電機メーカーが多くのシェアを占めており、隙間商品のような存在で、多くのユーザーを獲得することは叶わなかった。スタートして2年後にはインターネットが世界の関心を一身に集めるようになり、世界標準が確立されるに至り、この会社も衰退の一途たどり僅か3年で解散の憂き目をみることとなった。
それ以降自治体が積極的に介入する第三セクターや株式会社は誕生するという話は聞いたことがない。
2011.3.11の大災害以降自治体の情報化投資は全く影を潜めている。
それでもなお私がこのようにホームページの作成に拘り続けるのはなぜだろうか。それはこの世界の未来にまだ見つけていない何かが残されていると思っているからだ。memo2ではインターネットの現状と代表的ネットショップについて考察する。