今までに掲載した人物百相から写楽の歌舞伎絵を解説付きで再編集して紹介する。第三回目(1,2回は2016年に紹介)は21枚目から30枚目までについて解説する。
21.八代目森田勘弥の駕籠かき鶯の次郎作
寛政6年(1794年)5月桐座で上演された演目「敵討乗合話(かたきうちのりあいばなし)」の中で八世森田勘弥が演じた「駕篭舁鴬(かごかきうぐいす)の治郎作」を描いた作品
22.二代目坂東三津五郎奴くが平
寛政6年11月都座で上演された「花都廓縄張」の中で二代目坂東三津五郎が演じた奴くが平(大和屋是業)
23.三代目市川高麗蔵の篠塚五郎貞綱
写楽第三期の作品。寛政6年11月初日河原崎座に取材した「松貞婦女楠(まつみさおおんなくすのき)」河原崎屋:太平記に取材したいくつかの物語の中の足利尊氏(初代尾上松助)尊氏は篠塚五郎貞綱の「暫(しばらく)」の受け。2枚セットの一つ。美しい色彩と模様が目立つ。
24.二代目沢村淀五郎の川連法眼と初代坂東善次の鬼佐渡坊
寛政6年5月河原崎座上演された演目「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)」の中で二世沢村淀五郎が演じた「川つら法眼」と坂東善次が演じた「鬼佐渡坊」を描いた作品。
25.中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と中村此蔵の船宿かな川やの権
寛政6年(1794年)5月桐座で上演された演目「敵討乗合話(かたきうちのりあいばなし)」の中で中島和田右衛門が演じた「ぼうだらの長左衛門」と中村此蔵が演じた「船宿かな川やの権」を描いた作品。
26.篠塚浦右衛門の都座口上の図
都座の楽屋頭取(多分篠塚浦右衛門)が舞台で口上の巻をひろげてつぎに上場する狂言や役者名、役名を読み上げている図である。この役回りは古参の役者がこの位置につく。その顔面描写に、その年輪のほどがうかがえて、その卓抜さには驚嘆すべきものがある。
27.三代目佐野川市松と市川富右衛門
寛政6年(1794年)5月都座で上演された演目「花菖蒲文禄曾我(はなあやめぶんろくそが)」の中で市川富右衛門が演じた「蟹坂藤馬」と三世佐野川市松が演じた「祇園町の白人おなよ」を描いた作品。市松はこの頃女形としてはやや無理があった。骨ばった顔などその無理を見事に暴いている。
28.三代目市川八百蔵の不破伴左衛門重勝(二人部分の一)
この作品の原題は三世坂田半五郎の子育観音坊と三世市川八百蔵の不破伴左衛門という作品で、寛政六年七月都座の「けいせい三本傘」に出演した俳優を描いた作品。紹介している部分は三代目市川八百蔵の役柄を切り取ったもので、この絵ほど歌舞伎の独特の見得の美しさを感じさせる作品はないと言われるほど、歌舞伎の舞台の瞬間美が垣間見える一枚。二人の見得の美しさを写楽はくの字とへの字の交錯によって表現し、そしてこの二人が八百蔵の刀によってがっちりと結び合って渾然の美を描き出している(浮世絵木版画「金沢文庫」より)。
29.初代松本米三郎のけわひ坂の少将実はしのぶ
寛政6年5月桐座上演の「敵討乗合話」に取材した作品。貧しさゆえに廓に売られ遊女となった松下造酒之進の娘しのぶを演じる松本米三郎。
30.三代目瀬川菊之丞の田辺文蔵妻おしづ
寛政6年5月都座上演の「花菖蒲文禄曽我」に取材した作品。
「花菖蒲文禄曽我」は、元禄14年(1701)に実際に起こった、幼い兄弟が父と兄の仇を28年を経て伊勢国亀山城下で討ち取った「亀山の仇討ち」をもとに脚色された。