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      現在「懐古趣味」は江戸の職人の姿を当時の浮世絵師の手で描かれたものを彩色しなおすととともに、それぞれの職業を出典の「江戸職人聚(三谷一馬:中公文庫)」から選びだして解説しながら紹介している。 青色の太字をクリックすると 、画像が表示される。

 江戸の職人 第六話「紙」の部2022年


造花師
 「〔造花師〕諸の糸をもてつくる。むすびはなともいふなり。又は紙をもつてこれをつくる。所々に住す」(『人倫訓蒙図彙』)
「〇作り花雑色の綏帛(さいはく)もて造れるをいふ」(『嬉遊笑覧』)
「〇別春が造花
 造花師別春は京師の者なり。後江戸に来りて上野広小路に住す。寛永の頃とやらん。やんごとなき方に花を造りて奉ければ深く感じ給ひ、汝が家には別に春のあるこゝちすれば、 是より別春と名のるべしと仰せごとありてより、しか名乗るとぞ。古老の伝へてかたりける其以前名未考「延宝歌仙」延宝五年印本
  別春や上野帰りの道すがら 緑糸子
 句意は聞えし如く、上野の花のかへるさに、広小路の別春が見世の花を見れば、べつの春ともいふべしといふ吟なり。」(『足薪翁記』)
  蝶うかり造り花屋へ門ちがい(しげり柳)
   (出典•合巻『宝船桂帆柱』文政十年 歌川広重画)

天徳寺屋
江戸の貧しい庶民や武家の使用人なんかは四角い掛けふとんを使っていました。ただし、ふとんはふとんでも木綿製ではありません。では、なにでできたふとんかといいますと…和紙。なんと和紙。
四角い和紙に藁クズを入れ周りを縫ったこの掛けふとんは「紙衾(かみふすま)」と呼ばれ、江戸は芝にある天徳寺というお寺の門前で売られていたので別名「天徳寺」ともいいました。
原文は『守貞護稿』に次のようにあります。
「天徳寺江戸困民及武家奴僕夏紙張ヲ用フ者秋二至リテ売レ之是二ワラシベ等ヲ納レテ 周リヲ縫ヒ衾トシテ再ビ売レ之困民奴僕等買レ之テ布団二代テ寒風ヲ禦グ也今八奴僕ハ用, 之歟困民ハ不レ用レ之又享保前ハ是ヲ売歩行ク享保以来廃シテ今ハ見世店ニ売ルノミ蓋天徳寺ノ名拠ヲ知ラズ江戸愛宕山下二天徳寺ト云禅寺アリコ、二因アル名歟此物京坂従来所レ 無也又古紙張ノミニ非ズ新紙製モアリ又綿二代ルニ『ボロ』ト号ケテ更ニ不用ノ古裁レヲ 集メ納ルモアリ」
絵は紙屑問屋の店先で、中央の女房が「このごろのひよりのよさでてんとくじのかけはずしもせハしいくらいだ」といっています。左の鉢巻の男は、生麴糊(なまこうじのり)で紙を貼っているところです。
(出典•合巻『花見話虱盛衰記』寛政十二年 歌川豊国画)

紙衣師
 和紙「主として楮紙(こうぞがみ)」で仕立てられた衣には、紙衣(紙子ともいう)と紙布とがあります。 紙衣は和紙をよく揉んでやわらかくして作ったもので、天平時代から伝わる二月堂のお水取りの僧の着衣がこれです。紙布は和紙を細く切って撚りをした紙糸で織ったもので、経糸、緯糸とも紙のものを諸紙布と呼びます。経糸に木綿、麻、絹糸を使ったものもあります。 紙布に用いる紙は、紙の繊維が並ぶように特殊な漉き方をして、紙断庖丁で一寸幅を十八に切ります。切った紙を石の上に置き、湿りを加えて両手で揉むと、紙は一本一本が丸味を帯びて糸のようになります。その糸を一本一本つないで糸績みをします。一枚の紙を一本の糸にすると四百尺になり、一反に必要な紙の枚数は二帖(百枚)です。糸車で撚りをかけて 撚った糸は湯通しして撚りが戻らないようにします。製織は普通の織り方と同じです。
(出典••図会本『日本山海名物図会』宝暦四年長谷川光信画)

経師
 江戸時代初期の17世紀の初めには巻子本だけではなく、冊子本の製本も行うようになり、屏風や襖なども表装したりする表紙の表具師の仕事も混在するようになってきた。
 一方で、和本の冊子本の製本には表紙屋という専門職人が分化しており、経師は巻子本や巻物になり、表具師の仕事が加わっている。自宅で仕事をする「居職」で、経師屋というようになった。17世紀の初めには、京都で表具屋の巻物は使い物にならない、経師の表具は良くないという評価は存在していたが、次第に経師屋は、写経師の仕事よりも表具屋や唐紙師の仕事が主体になっていった。
 当初は経師屋は特別な刃の小刀を道具として使っていたが、冊子本が多くなると、竹の弾力を利用して帖を圧搾する短い太い柱状の道具や、糊を入れる桶、または鉢や刷毛と金砂子を振りかけるときに使う水嚢(篩)などを使うようになった。また、技法は掛け物と同じであるが、糊は薄いものを使っている。裏打ち、仮張りをして定規をあてて紙切り包丁で裁ち、軸に巻きつけている。
 経師の仕事は京都が中心で、経師仲間の長を大経師と言って、禁裏の注文に応じていた。また、暦の印刷・発行の特権を持ってもいた。
 経師の絵で描けなかった部分看板の障子に「御経師」 と貼り紙があった。「御経師」の右 に達磨の絵が描いてある(赤く塗られた部分)。経師屋 の看板にはよくこの達磨が描かれてい る。この意味は、だるまん、だるま ない、つまり当方の表具の軸物などは 一切、だるま、ない、たるまないにか けた洒落。また一説には達磨大師 」は仏法の祖であり、仏法は「みのり」 と読み、みのり、み、のり、つまり経師屋の主材料の糊と達磨大師との洒落だたろうといわれている:奥には仮張 に貼った軸物と、その奥に屛風が見え ている。(経師の出典•合巻『床飾錦額無垢』文政四年 歌川美丸画)

表具師
 近世になると経師(前掲)と表具師の違いはな くなり、軸物や和本の装丁、襖の貼り 替えなどと仕事が広くなります。
 表具師の絵の原文には表具屋とあります。もともと表具師、経師は居職ですが、得意先か らの依頼によっては出職をすることもありました。この絵は、武家の家へ出張して壁に壁紙 を貼つているところです。
 経師、表具師の仕事の中で第一にむずかしいのは糊で、次は裂地選びの配色だといいます。 人によってはこの裂地の配色が一番むずかしいともいいます。 経師、表具師の糊は「寒糊」といって、寒のうちに生数を煮て三年ぐらい床下の壺にねかして、黄色味をおびた色になったものを使うそうです。ただし襖の糊は新糊です。寒糊はもっぱら軸物の表装に使われます。
 刷毛には打刷毛、どうさ刷毛、内刷毛、縄刷毛、切り継ぎ刷毛、くえさき刷毛、水刷毛が あります。刷毛の毛は、刷毛によってそれぞれ違った毛が使われます。糊刷毛は、普通は馬 毛ですが、最上物には、馬のしっぽの付け根に生えたうぶ毛ようなやわらかい「くま毛」と 呼ばれるものを用います。打刷毛は棕相の皮の繊維で出来ています。
(表具師の出典•合巻『琴声美人録』嘉永二年二代歌川豊国画)


 

 
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