今このホームページで結構息長く閲覧されている「口上いろいろ(2016年note)」と言う一編がある。これは2016.3.8のコラムで口上の例として「ガマの油売り」を取り上げたのがきっかけで書いたもの。そこでは落語に出てくる「ガマの油売り」の口上を簡単に紹介した。そこで「口上」の改訂版として、正調伊吹山のガマの油売りの口上を全編紹介して、お楽しみ頂きたい。(出典は室町京之介「香具師*やし」口上集)
「さあてお立会、ご用とお急ぎの無い方がございましたら、約二、三分間で結構、私
の話聞いていただきたい。目の前にありますこのガマは、縁の下や野原にいるガマと
違いまして、江州(こうしゅう)は伊吹山でとれます。これが一名四六のガマ、四六、五六はどこで分るかちゅうたら、前足が四本、後(あと)足が六本、一年の内三月の声聞きます江州は伊吹山の麓の人、山に登りつめます。四面鏡(かがみ)、下金網の中にガマを追いつめます。一年の内おんばこという露草を食べ育った、そのガマをこの中に追いつめます。
小心者のガマがおのが姿鏡に映って、驚いて流す油汗がとろり、とろり、三七、二十一日間柳の箸は一尺二寸、とろ火にかけて、固めましたもの、皆さん方が、やれ、ころんだ、すり傷、かすり傷、冬になりまして、ひび、あかぎれ、尾籠(びろう)なお話で失礼ですが、痔のお方、痔にもいろいろございます。切痔、いば痔、痔瘻、脱肛、一度つけて下さいませ、根からびたっとなおる、ただ今試験をして皆さん方にお見せ致しましょう。
ここにありますものが、ご存知の正宗の名刀、ただ今より、半紙を切ってごらんにいれよう、ハイ、もうちよっとハイ、前の方へ、ハイもうちょっと前の方へ寄って下さいませ。いいですか、ハイ、一枚が二枚、ネ、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十と二枚、三十二枚が六十と四枚。上へ吹き上げます嵐山は落花の舞、これだけ切れる正宗の名刀、私の腕へちょいとあてがっただけでも、これだけの血が出ます。
ここへガマの油を、ちょいとこっすていただく、ぴたっと、ホラこの通り、血が止まったでしょう、ネ、あとあと、大きな生薬(きぐすり)屋さんでお求めになるお値段が五十銭、本日は路傍に立っての宣伝中、家庭の常備薬持って帰ってつけてみようという方がございましたら、わずかの三十銭、ちょっとお持ち下さいませ。川中島の戦いにおいて上杉謙信、武田信玄の二人が、このガマの油をもって戦ったといういわれがあります。
ハイありがとうございます。いまさしあげます。ヘイ、こちらの方ちょっとお待ち下さいませ、試験をしてさしあげます。ハイ、ありがとうございました」
以上が全文で、これを体感するには実際自分が講釈師になった気で声に出して読まないと、本当の面白さは味わえないだろう。