「秋は夕暮れ。夕日のさして山端いと近くなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ二つなど、飛び行くこへあはれなり」これは枕草子(清少納言)の秋の項の出だし文である。
長閑な秋の風景が目に浮かぶようだが、今年の秋はそのような風情を見ることが出来ない。26号の台風の被害は想像以上に大きいようで、近くの公園の欅の高木に巣を作っていた烏がいつの間にかいなくなってしまった。朝早くからカーカーとかクヮックヮッとうるさく飛び回っていたのだが、巣が飛ばされたのか、巣立ちの時期なのか定かではないが、静かになってしまった。虫の声さえ消えたような気がする。
いつの間にか朝晩冷え込むようになった。やがて10月も終わる。直ぐ冬が訪れるというのに、台風はその力を失わず、27号28号と連れ立って日本に近付いている。今年はどう見ても異常気象である。つい最近まではゲリラ豪雨騒ぎがあり、26号の台風は大雨で大島に多大な打撃を与え、その始末がつかぬ間に27号が近づきつつある。島民は再度の被害を恐れ本土への非難を開始しているというのが10月23日時点の有様である。
古来より日本人が愛する季節は密やかに忍び寄り、木々の葉を少しづつ紅に変え、夕日はつるべ落としの鮮やかな虹彩を放って地平線の彼方に沈むというのが筋書きであったはずだ。
ところがどうした事か時ならぬ台風が、上記のようにまたひと騒動もたらそうと企んでいる節が見られる。
詩情豊かに、崩れゆくものの儚くも、最後の煌めきを期待していたのだが、感動を残さぬ間に秋は去って行ってしまうのか。日常細事の野分のコラムに記したように11月に半月ほど秋に居座ってもらわないと、いい絵を撮るチャンスが失われるのが個人的には痛いところだ。